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ご飯を囲みながら金銭課題と人集め。あと市のある次の日は休むと博之が決める。続けるためや

昼は、少しずつ“贅沢”になっていた。

鍋から湯気が立ちのぼる。豚汁の匂いに、焼いた魚の香ばしさが混じる。握り飯を並べ、皆で囲む。

「……こんなもん、食えるとは思わんかったな」

ぽつりと誰かが言う。

「ほんまやな」

ヨイチも笑う。

イワシの塩焼きをかじりながら、もう一人が頷く。女たちも、少し遠慮がちに箸を伸ばしていたが、

最近はようやく遠慮も薄れてきていた。

博之はその様子を見ながら、椀を持つ。

――ええな。

内心でそう思う。

ただ腹を満たすだけじゃない。皆で囲んで食うということに、意味が出てきている。

だが、同時に考える。

「……ええか」

 少し声を落として言う。

 皆の視線が集まる。

「今、儲かっとる」

正直に言う。

「ありがたいことや。でもな」

 一拍置く。

「儲かっとるいうことは、狙われるいうことや」

 場が少し静まる。

「せやから、金はそのまま持たん。米と味噌に変える」

 指を立てる。

「で、それぞれの店や部屋に分けて隠す」

 ヨイチが真面目な顔でうなずく。

「一ヶ所にまとめたら終わりや」

「……なるほどな」

 未亡人も小さく呟く。

「あと、人や」

博之は続ける。

「増やす。でもな」

 少しだけ苦笑する。

「いかつい兄ちゃんは、まだ怖い」

 何人かがくすっと笑う。

「せやからな」

 言葉を選ぶ。

「愛想のええ女の子と、下働きできる子や。嘘つかん、裏切らん、それだけや」

 女の子が少しだけ背筋を伸ばす。

「それとや」

博之は椀を置く。

「読み書きと計算やな」

「……計算?」

ヨイチが首を傾げる。

「難しいことやない」

博之は手を振る。

「何が、いくらで売れたか。何を、いくらで買ったか。それだけや」

皆の顔を順に見る。

「それができへんかったら、任せられへん」

静かに言う。

誰も口を挟まない。

「せやからな」

少し柔らかくなる。

「寺の和尚に頼んで、月に何回か教えてもらう」

「勉強かあ……」

 ヨイチが苦い顔をする。

「嫌なんはわかる」

博之は笑う。

「でもな、それで飯が食えるんやったら、悪ないやろ」

少し間を置く。

「別に学者になれ言うてるんちゃう。数字読めて、名前書けたらええ」

未亡人がうなずく。

「……それなら」

「あと、もしそういうやつおったらな」

博之は続ける。

「十日に一回でも来てもろて、教えてもらうでもええ」

 ヨイチがぽつりと言う。

「金払うんか?」

「払う」

 即答だった。

「それで回るようになるんやったら、安いもんや」

 その言葉に、皆が少しだけ納得した顔になる。

 飯が終わり、各々が動き出す。

 火を整え、仕込みをし、客を迎える。

 そんな日々が、また一週間続いた。

 忙しさは変わらない。

 だが、どこかで皆、無理をしているのもわかっていた。

 ある日の夜、博之はふと思い出したように言う。

「そうや」

「なんや」

 ヨイチが振り向く。

「休み、作る」

「休み?」

「五日働いたら、一日休む」

 皆が少し驚く。

「市の日の次の日や」

「ああ……」

 ヨイチが納得する。

「一番忙しい日の次やな」

「せや」

 広之はうなずく。

「ずっとやっとったら、壊れる」

 静かな声だった。

「人間、そんな強ない」

 女たちが少し顔を見合わせる。

「その日はな」

 指を折る。

「湯浴み行け。洗濯せえ。寝ろ。好きにせえ」

「……ええんか?」

 小さな声。

「ええ」

博之は短く言う。

「続ける方が大事や」

 その言葉は、重かった。

「休むんも仕事や」

 ぽつりと付け加える。

 皆がゆっくりとうなずく。

 火が揺れる。

 誰かが小さく笑う。

 少しだけ、肩の力が抜けた空気が流れる。

 そうしてまた、一週間が過ぎていく。

 忙しさの中に、少しの余白を作りながら。

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