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オッサンとガキが朝飯を食べながら今後の課題と魚の塩焼きやをやる話と器をそろえる、人を探すことを始める

朝は、少し冷えた。

小屋の中、三人で囲む飯は、相変わらず簡素だが、どこか落ち着いている。

残りの豚汁を温め直し、握り飯と一緒に食う。

博之は椀を置いて、ふう、と息をついた。

「……魚、食いたいな」

 ぽつりと漏らすと、ヨイチが顔を上げる。

「魚?」

「ああ。イワシとかサバや」

 指で鍋の縁を叩きながら続ける。

「塩焼き屋、やるか」

「塩焼き屋?」

 もう一人の子も、少し驚いた顔をする。

「難しない。串刺して、塩振って、焼くだけや」

博之はあっさりと言う。

「お前らでもできる」

ヨイチが少し考えてからうなずく。

「……できそうやな」

「やろ。加減は最初、わしが見る」

火加減、塩加減。そこだけ押さえれば、あとは回る。

「ほな、やろか」

ヨイチの顔に、少しだけやる気が浮かぶ。

博之はそのまま続ける。

「でや」

「うん」

「器やな」

 少しだけ真面目な声になる。

「わしは着るもんはどうでもええ。でもな、飯と寝るとこは気使いたい」

ヨイチが静かに聞いている。

「寝るとこはまあ、今はしゃあない。でも飯はちゃう」

 椀を軽く持ち上げる。

「うまいもんが食えるってのが、一番や」

 ぽつりと言う。

 ヨイチはうなずいた。

「……確かに」

「せやろ」

 広之は立ち上がる。

「陽気なあの女に頼むわ。器とか見つくろってもらう」

「うん」

「ヨイチ、お前は魚や」

「魚?」

「魚売り来る場所、どこか調べとけ」

「わかった」

 ヨイチはすぐにうなずく。

「あとやな」

 少しだけ声を落とす。

「人、増やす」

 空気が少し変わる。

「女や」

「……女?」

「訳ありでもええ。未亡人でも、行き場ないやつでもええ」

 広之は真っ直ぐ言う。

「住むとこ困ってるやつ、雇う」

 ヨイチは少し考えてからうなずいた。

「……それやったら、働くやろな」

「ああ」

 広之は軽く笑う。

「飯は食わせる。寝るとこも出す。それで来るやつは、筋通す」

 少し間を置く。

「坊主の方は後や。今はまだいらん」

「うん」

「まず回す」

短く言い切る。

その日の昼。

いつも通り店を回しながら、博之は裏で動く。

小屋を貸してくれている旦那のところへ向かった。

「旦那」

「おう、どうした」

「次、塩焼き屋やる」

 あっさりと言う。

 旦那は目を細めた。

「ほう、今度は魚か」

「イワシとサバや。焼くだけやから回しやすい」

旦那はにやりと笑う。

「どんどん広がるな」

「借りるとこも増やしたい」

「ええで、ええで。借りてくれ借りてくれ」

 軽く手を振る。

「ただな」

広之は少しだけ顔をしかめる。

「人が足らん」

「せやろな」

「女、探してくれ。訳ありでもええ。働けるやつや」

 旦那は腕を組む。

「おるにはおるで」

「頼む」

 少し間を置いて、続ける。

「あと、男も欲しいけどな」

「ほう」

「でもな」

 広之は苦笑する。

「正直、ムキムキの男はまだ怖いねん」

 旦那が吹き出す。

「なんやそれ」

「おっさんと子供やで、こっち」

「まあ、わかるわ」

 旦那はうなずく。

「その辺は見てやる」

「頼むわ」

 軽く頭を下げる。

 話を終えて店に戻ると、いつものように火が回っている。

 ヨイチは団子を焼き、もう一人は薪を運ぶ。

 広之は鍋をかき混ぜる。

 それぞれが、やるべきことをやっている。

「ええか」

 広之はふと声をかける。

「目ぇつけたやつおったら、声かけろ」

「……ええんか?」

 ヨイチが聞く。

「ああ。でもな」

 指を一本立てる。

「誰でもええわけちゃう」

 ヨイチが真面目な顔でうなずく。

「わかっとる」

 火の音が、静かに響く。

 ――広がるな。

 まだ小さい。だが、確実に。

 店はもう、一つではなくなり始めていた。

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