他者の視点
昼。
街の中心。
簡易の詰所。
情報の整理と報告のため、一時的に拠点として使われている。
「——なるほどな」
机の向こうで、男が腕を組む。
この集落を管轄する小隊長だ。
視線は資料ではなく——
エリオに向いている。
「報告通り、手際はいい」
「任務の一環だ」
エリオは淡々と答える。
「謙遜はいい」
小さく笑う。
「外から来た騎士団長、ってのも本当らしいな」
「……」
ガイがわずかに視線を動かす。
「で?」
小隊長が続ける。
「そっちのは監視役か?」
「そうだ」
ガイが答える。
「へえ」
興味深そうに頷く。
だがその視線は、やはりエリオに向いている。
(……見すぎだろ)
ガイの眉がわずかに寄る。
「仮面、外さねえのか?」
唐突な一言。
空気が止まる。
「必要ない」
エリオが答える。
「そうか」
あっさり引く。
だが。
「もったいねえな」
ぽつりと呟く。
「……何がだ」
ガイが低く返す。
「雰囲気で分かる」
小隊長が笑う。
「整ってるだろ、顔」
沈黙。
(……なんだ、それ)
ガイが一瞬、思考を止める。
「見てもいねえのに分かるのかよ」
「分かるもんだ」
軽く肩をすくめる。
「隠してるやつほど、な」
視線が、エリオに向いたまま。
「……」
ガイの中で、何かが引っかかる。
(……何を根拠に)
理解できない。
だが。
(……気に入らねえ)
理由は分からない。
「——報告は以上だ」
エリオが言う。
空気を切るように。
「そうか」
小隊長が視線を戻す。
「じゃあ、引き続き頼む」
立ち上がる。
話は終わり。
外に出る。
日差しが少し強くなっている。
「……」
ガイは無言で歩く。
「何だ」
エリオが言う。
「……いや」
言葉が続かない。
(……整ってる、か)
さっきの言葉が残る。
(見てもいねえのに)
意味が分からない。
だが。
(……見たらどうなる)
一瞬、思考がよぎる。
「……」
視線が向く。
エリオへ。
仮面。
表情は分からない。
(……)
わずかに、眉が寄る。
(……別に)
すぐに否定する。
(関係ねえ)
「行くぞ」
ガイが言う。
「了解した」
並ぶ。
いつも通りの距離。
のはずだった。
「……」
気づけば。
わずかに、近い。
「ガイ」
「……なんだ」
「距離が近い」
「……気のせいだ」
即答する。
(……違うだろ)
自分でも分かっている。
だが。
認めない。
その時。
「おーい」
後ろから声。
振り向く。
さっきの小隊長だ。
「一つ言い忘れた」
近づいてくる。
ガイがわずかに位置をずらす。
「気をつけろよ」
「何にだ」
「そいつ」
エリオを指す。
「自覚ねえタイプだろ」
沈黙。
「周り巻き込むぞ」
軽く笑う。
「もう巻き込まれてるかもしれねえけどな」
そのまま去っていく。
静寂。
「……」
ガイは何も言わない。
(……巻き込まれる?)
意味を反芻する。
視線が、隣へ向く。
エリオ。
変わらない。
何も。
(……)
小さく息を吐く。
(……もう遅いだろ)
誰にも聞こえない声。
風が吹く。
距離は、やはり近かった。




