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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第一章 問題ない関係
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侵食

夕刻、集落の外れ。


二度目の調査。


崩れかけた建物の影に身を潜めながら、ガイはわずかに目を細めた。


「……動いてるな」


「複数だ。潜伏ではなく移動している」


エリオが即座に応じる。


「拠点を変えるつもりか」


「可能性は高い」


短い会話で十分だった。互いの意図は、言葉以上に伝わっている。


「追う」


「わかった」


同時に地を蹴る。


森へ入ると、外の喧騒は遠のき、代わりに標的の気配だけが際立った。


「——止まれ」


エリオの低い声に、ガイも即座に足を止める。


前方に三つ。さらに奥に二つ。


「五か」


「囲めるな」


「俺が前に出る」


「なら、後ろは任せる」


それだけで、連携は成立する。


踏み込む。


一人目をエリオが崩し、間を置かずガイが仕留める。


二人目はガイが受け、エリオが落とした。


呼吸が合っている。無駄がない。


だが——


三人目が踵を返した。


「……逃がすな」


エリオが即座に追う。


「待て——!」


ガイの制止は届かない。


そのまま森の奥へと消えていく。


(……チッ)


舌打ちし、ガイも後を追った。


木々が途切れ、開けた場所に出る。


そこに立っていたのは、エリオと——もう一人。


昼間、詰所にいた小隊長だった。


「……早えな」


口の端を上げて笑う。


崩れた立ち方。余裕のある気配。


「そっちも動いてたか」


「情報は共有されている」


エリオが淡々と答える。


「堅いなあ」


肩をすくめながら、一歩近づく。


自然に、距離を詰める。


「もうちょい力抜けよ、騎士団長殿」


軽口とともに手が上がる。


肩に触れようとした、その瞬間——


ガイが割り込んだ。


「触るな」


低く押さえた声。


空気が一瞬で張り詰める。


小隊長がわずかに目を細める。


「……またそれ?」


軽く首を傾ける仕草にも余裕がある。


「任務中だ」


「さっきも聞いたって」


「なら理解しろ」


「お前がな」


視線がぶつかる。


静かに、だが鋭く。


「……あー、なるほど」


小隊長がぽつりと呟く。


「何がだ」


ガイの声が低くなる。


「いや?」


口元に笑みを浮かべたまま、視線がゆっくりと動く。


ガイからエリオへ。そしてまた戻る。


「分かりやすいなって思って」


「何がだ」


「全部」


一瞬の沈黙。


「ガイ」


エリオが口を開く。


「過剰だ」


淡々とした一言。


「接触は問題ない。任務に支障もない」


胸の奥が、わずかに軋む。


(……問題、ない?)


小隊長がくっと笑う。


「言われてるぞ」


ガイは答えない。


代わりに、一歩前へ出る。


エリオの隣へ、無意識に。


遮る位置へ。


「……行くぞ」


短く言う。


「まだ終わっていない」


「分かってる」


声がわずかに低い。


その時、小隊長が軽く手を上げた。


「っと、名乗ってなかったな」


気軽な口調で言う。


「レオン・ヴァルガス」


「この辺りの面倒見てる」


名乗りは軽い。だが、妙に耳に残る。


「ま、知ってると思うけどな」


にやりと笑う。


視線はエリオに向いたまま。


「気ぃつけろよ」


「何にだ」


「この辺りは怖い狼が出るからな」


ガイが睨む。


レオンは肩をすくめる。


「ま、せいぜい頑張れよ」


背を向け、森の奥へと消えていく。


静寂。


「……」


ガイは何も言わない。


(……なんだ、今の)


頭に残る言葉。


“問題ない”


“過剰”


そして——


“引っかかる”


前方で気配が動く。


残りの敵だ。


ガイが踏み込む。


一撃で沈める。


強い。速い。


だが——


荒い。


「ガイ」


エリオの声。


「……問題ない」


被せるように返す。


(……違うだろ)


分かっている。


だが、止められない。


戦闘が終わり、静寂が戻る。


エリオが近づいてくる。


「負傷はないか」


手が伸び、腕に触れる。


確認のための、当然の動作。


(……)


一瞬、思考が止まる。


理由は明確なはずなのに——


(……なんでだ)


それだけで、落ち着く。


「問題ない」


声がわずかに低くなる。


「そうか」


エリオは短く答え。


ほんのわずか、遅れて手を離した。


「……」


ガイはその手を見つめる。


(……離すな)


一瞬、よぎる思考。


(……何考えてんだ)


すぐに振り払う。


「戻る」


エリオが言う。


「……ああ」


並んで歩き出す。


距離は、いつも通りのはずなのに。


「……」


気づけば、また近い。


(……クソが)


小さく舌打ちする。


(……もう遅えだろ)


誰にも聞こえない声が、風に溶けた。


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