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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第一章 問題ない関係
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境界の崩壊

夜の森は、昼とはまるで別の世界のようだった。


湿った空気が肌にまとわりつき、静寂の奥に潜む気配だけが異様に濃い。


ガイは周囲を探るように視線を巡らせ、低く息を吐いた。


「……多いな」


ただ数が多いだけではない。


“潜んでいる気配の質”が、これまでとは明らかに違っていた。


「拠点だ」


エリオが迷いなく言い切る。


「この先に本命がある」


その声には、一切の迷いがない。


ガイは舌打ちを飲み込むようにして頷いた。


「……面倒な場所に来たな」


「だが、ここを潰せば終わる」


短い言葉。


だが、それで十分だった。


「突入する」


「ああ」


同時に地を蹴る。


その瞬間——森の空気が一変した。


潜んでいた気配が一斉にこちらへ向かってくる。


「囲まれてるぞ!」


ガイが低く吐き捨てる。


左右、背後、そして正面。


完全に包囲されている。


それでもエリオは止まらない。


「想定内だ」


一言だけ告げ、そのまま前へ踏み込む。


「前を切り開く」


「無茶すんな!」


ガイもすぐに後を追う。


数が違う。


四方から絶え間なく襲いかかる影。


だが——


エリオの剣は、正確すぎた。


一太刀ごとに確実に急所を捉え、無駄なく敵を沈めていく。


まるで最初から結果が決まっているかのような動きだった。


(……やっぱり異常だ)


ガイは内心で吐き捨てる。


それでも。


「チッ……キリがねえ!」


数が減らない。


倒しても、すぐに次が来る。


背後に気配が走る。


「下がれ」


エリオが言う。


「は?」


「前を開ける」


その瞬間だった。


エリオが一歩踏み込み——剣を振るう。


鋭い一閃。


一人ではない。二人、三人と同時に崩す。


強引に、だが正確に突破口を作る。


「今だ」


「……ッ、分かってる!」


ガイがその隙間を抜ける。


だが、その直後。


横から刃が滑り込んだ。


「——!」


避けきれない。


そう判断した、その一瞬で——


エリオが割り込んでいた。


鈍い音。


刃が、肩に深く食い込む。


「エリオ!」


ガイの声が荒れる。


だがエリオは止まらない。


そのまま敵を叩き伏せ、何事もなかったかのように立つ。


「問題ない」


血が、確実に流れていた。


「あるだろうが!」


ガイが腕を掴む。


「下がれ!」


「まだ終わっていない」


振り払おうとする。


「終わらせる!」


ガイの声が低く、強くなる。


抑えていた感情が、明確に滲んでいた。


その一瞬。


エリオの動きがわずかに止まる。


ガイはその隙を逃さない。


「ここは俺がやる!」


前へ出る。


荒い。だが、圧倒的な力で押し切る。


やがて——


全てが沈んだ。


森に静寂が戻る。


「……はぁ……」


ガイの呼吸が荒い。


振り返る。


エリオは立っている。


だが。


出血量が明らかに多い。


「おい……」


近づく。


「……問題ない」


変わらない声。


「ふざけんな」


ガイが低く吐き捨てる。


「座れ」


「必要ない」


「ある」


強く押さえ込む。


その時だった。


仮面の端から、血が伝う。


「……は?」


ガイの視線が止まる。


血が、顎へと流れ落ちる。


「……顔、もかよ」


エリオは何も言わない。


ただ、静かに立っている。


「……おい」


ガイが手を伸ばす。


仮面へ。


だが、触れる直前で止まる。


(……いいのか)


迷い。


だが。


「……邪魔だな」


低く呟く。


「止血できねえ」


合理的な理由を、自分に言い聞かせるように。


「外すぞ」


エリオは一瞬だけ沈黙し、やがて答える。


「……必要なら許可する」


その瞬間——


エリオがわずかに首を振った。


「……待て」


「は?」


「ここでは外せない」


短く、だが明確に。


「まだ敵の気配が残っている。長く留まるべきではない」


ガイが周囲を見る。


確かに、完全に安全とは言い切れない。


「止血くらいできるだろ」


「不十分だ」


即答。


「戻る」


迷いのない判断。


(……チッ)


ガイは舌打ちしながらも、手を下ろす。


(……今は従うしかねえか)


「……分かった」


立ち上がるエリオ。


だが、その動きはわずかに鈍い。


(……やっぱり無理してる)


並んで歩き出す。


夜風が吹く。


その中で、仮面の端がわずかに揺れた。


血に濡れた隙間から、ほんの一瞬だけ——

肌が覗く。


「……」


ガイの視線が止まる。


(……なんだ、今の)


はっきりとは見えない。


だが。


(……気のせいか?)


違和感だけが残る。


「行くぞ」


エリオの声。


「……ああ」


再び歩き出す。


だが、ガイの視線はしばらく戻らなかった。


夜が、ゆっくりと明けていく。


何かが変わる予感だけを残して。


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