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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第一章 問題ない関係
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露見と再生

夜明け前の空気は、刺すように冷たかった。


森を抜け、集落へ戻る道。


足元は安定しているはずなのに、ガイは何度も隣を確認してしまう。


エリオの歩みは崩れていない。


だが、衣服に滲む血の量は、見過ごせるものではなかった。


「……本当に持つのか」


抑えた声で問いかける。


「問題ない」



返答は変わらない。


「その言葉、便利だな」


皮肉を混ぜる。


だが、返事はない。


やがて、集落の灯りが見えてきた。


見張りの兵が気づき、声を上げる。


「戻ったぞ!負傷者あり!」


その一言で、場の空気が一気に動いた。


「医療班呼べ!」


ガイが声を張る。


数人が駆け寄り、エリオを支えようとするが——


「必要ない」


短く制する。


「いいから来い」


ガイが腕を掴み、半ば強引に建物へ押し込む。


中は簡易の医療所だった。


灯りが灯され、器具が整えられている。


「座らせろ」


ガイの声に従い、エリオを椅子へと座らせる。


医療班の一人が傷を確認し、顔をしかめた。


「……深いな。すぐ処置する」


手際よく準備が進む。


そして——


手が、仮面へと伸びた。


その瞬間。


エリオの手が、その動きを止める。


「……触れるな!!」


低く、明確な拒絶。


「顔の損傷も確認する必要がある」


医療班が冷静に返す。


「不要だ」


即答だった。


「止血だけでいい」


「無理だ、この出血量じゃ——」


「問題ない」


押し切ろうとする。


「いい加減にしろ」


ガイの声が落ちる。


室内の空気が一瞬で張り詰めた。


「……死ぬ気か」


「死なない」


「そういう問題じゃねえ」


一歩、踏み込む。


「外せ」


「拒否する」


迷いのない拒絶。


その場が沈黙が落ちる。


その時。


「……面倒くせえな」


軽い声が割り込んだ。


振り向くと、入口にレオンが立っていた。


「まだ揉めてんのかよ」


肩をすくめながら歩み寄る。


「医療の邪魔は感心しねえな」


「関係ない」


エリオが切り捨てる。


「あるだろ」


レオンが笑う。


「いいか、ここ俺の管轄」


自然な動きで、エリオの前に立つ。


「で?」


視線が仮面に向く。


「それ、外さねえ理由は?」


ガイが眉を寄せる。


「触るな」


「はいはい」


軽く受け流す。


だが、その目は笑っていない。


「死なない、ねえ」


一歩、距離を詰める。


「だったら——試すか」


次の瞬間。


レオンの手が、仮面を掴んだ。


「——!」


止める間もなく——引かれる。


外れる。


あまりにも、あっけなく。


静寂。


露わになった顔に、誰もすぐには言葉を発さなかった。


左側の皮膚は大きく歪み、焼けただれた痕が色濃く残っている。


血と汗に濡れたその顔は、決して整っているとは言い難い。


「……っ」


医療班の一人が息を呑む。


ガイの視線も止まる。


(……これが)


思っていたよりも、ずっと酷い。


だが。


(……なんだ)


視線が、外れない。


損なわれているはずなのに——


どこか違和感が残る。


「……待て」


ガイが無意識に呟く。


レオンがわずかに目を細める。


「……ああ」


小さく笑う。


「完全に隠れてるわけじゃねえな」


一歩近づき、顔を覗き込む。


「骨格が整ってる」


静かな一言。


ガイの視線が再び向く。


確かに。


歪んだ皮膚の奥にある輪郭は、妙に均整が取れている。


(……まさか)


「……治療しろ」


レオンが言う。


「そのままにしとく顔じゃねえ」


軽い口調のまま。


だが、視線は鋭い。


医療班がすぐに動き出す。


「再生術を使う」


術者が手をかざす。


淡い光が、エリオの顔を包み込んだ。


じわりと、皮膚が反応する。


焼けただれた部分に触れるたび、わずかに形が整っていく。


だが——


「……これは、時間がかかるな」


術者が言う。


「すみません隊長。損傷が深い為、一度では戻らないです」


光はゆっくりと広がり、やがて弱まっていく。


完全には治っていない。


だが、変化は確かにあった。


腫れが、わずかに引いている。


血の流れも止まりつつある。


そして——


輪郭が、少しだけ見えるようになっていた。


「……」


ガイは言葉を失う。


(……さっきより)


明らかに、印象が違う。


まだ美しいとは言えない。


だが——


(……おかしい)


何かが、確実に“隠れている”。


レオンが小さく笑った。


「面白えな」


その視線は完全に興味を帯びている。


「どこまで化けるんだ、それ」


エリオは何も言わない。


ただ、静かに目を伏せている。


「……もう一度、処置を行う必要がある」


医療班がエリオに言う。


「時間を置いて、再度再生術を施す」


「分かった」


エリオが短く答える。


まるで、自分の顔に興味がないかのように。


「……」


ガイは、その様子を見ていた。


(……なんで平然としてんだ)


普通なら、気にするはずだ。


だが、こいつは違う。


(……分かってねえのか)


それとも。


(……興味がねえのか)


答えは出ない。


ただ一つだけ、確かなことがあった。


(……まだ変わる)


この顔は、まだ終わっていない。


夜明けの光が差し込む。


その中で、エリオの輪郭がわずかに浮かび上がる。


完成には程遠い。


だが——


確実に、何かが現れ始めていた。


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