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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第一章 問題ない関係
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顕現

昼下がり。


医療所の中は、朝よりも静けさを取り戻していた。


だが、その空気は決して穏やかではない。


どこか落ち着かず、視線だけが一箇所に集まっている。


エリオは椅子に座り、静かに目を閉じていた。


肩の傷は処置を終え、包帯で固定されている。


呼吸は安定し、意識もはっきりしている。


そして——顔。


「……始める」


術者が短く告げる。


三度目の再生術。


淡い光が、ゆっくりとエリオの顔を包み込む。


今までとは違う。


光の密度が濃く、流れるように肌をなぞっていく。


残っていた歪みが、少しずつ整っていく。


焼けた痕が、薄くなっていく。


完全には消えない。


だが、ーーーむしろそれがいい。


「……」


誰も、声を出さない。


変化を、ただ見ている。


ガイは無言で立ち尽くしていた。


(……これで)


終わる。


そう分かっているのに、目を逸らせない。


光が、徐々に弱まる。


やがて——消えた。


静寂。


術者が、息を吐く。


「……完了だ」


その一言が、やけに重く響いた。


エリオが、ゆっくりと目を開ける。


その瞬間。


空気が、止まった。


誰も動かない。


誰も、言葉を発さない。


そこにあったのは——


完成された“顔”だった。


整った輪郭。


通った鼻筋。


無駄のない線で形作られた顎。


そして、わずかに残る火傷の痕。


それすらも、欠点にはならない。


むしろ、視線を引き寄せる“要素”として存在している。


「……は」


誰かが、息を漏らす。


それが誰だったのか、分からない。


(……なんだ、これ)


理解が追いつかず、ガイの思考が止まる。


今まで見ていた男と、同一人物だと認識できない。


だが、確かに同じだ。


声も、気配も、何もかも。


なのに——


(……目が離れねえ)


逸らそうとしても、逸らせない。


「……終わったのか」


エリオが静かに口を開く。


その声で、空気がわずかに戻る。


「……ああ」


術者が答える。


「問題はない」


「そうか」


それだけ。


自分の顔を確認しようともしない。


まるで興味がないかのように。


「……お前」


ガイが、思わず声をかける。


エリオが視線を向ける。


その瞬間。


正面から、視線がぶつかる。


────息が詰まる、逃げ場がない。


(……やめろ)


心臓が、妙にうるさい。


「何だ」


いつも通りの声音。


だが、何もかも違って見える。


「……いや」


言葉が続かない。


何を言えばいいのか、分からない。


「何でもねえ」


視線を逸らす。


それが精一杯の行動だった。


「……ふっ」


小さな笑い声。


振り向くと、レオンがいた。


壁にもたれながら、面白そうにこちらを見ている。


「これは……反則だろ」


素直な感想だった。


「隠してた理由、よく分かる」


視線はエリオに向けられたまま。


「そりゃ面倒なことになるわ」


楽しそうに笑う。


だが、その目は完全に捕まっていた。


エリオは、そんな視線にも特に反応しない。


「問題は解決したな」


淡々と言う。


「任務に戻る」


その言葉に、ガイが顔を上げる。


「は?」


「もう動く気か」


「支障はない」


即答だった。


「傷も問題ない」


「顔もな」


レオンが口を挟む。


エリオは軽く視線を向けるだけで、何も言わない。


「……」


ガイは無言で見つめる。


(……無理だろ)


状況的にも。


そして——


(……色々な意味で)


「……やめとけ」


低く言う。


エリオがわずかに首を傾ける。


「何故だ」


その仕草すら、無駄に目につく。


「……お前が動くと、目立つ」


それだけ言う。


エリオは一瞬だけ考え、そして——


「問題ない」


やはり、変わらない。


「いや問題あるだろ!」


思わず声が強くなる。


「自覚ねえのかよ……」


言いかけて、止まる。


(……いや、ねえんだろうな)


だから厄介だ。


レオンが笑う。


「完全に“そういうやつ”だな」


「黙れ」


ガイが睨む。


だが、否定できない。


再び、視線がエリオへ向く。


(……ダメだ)


分かっている。


(……これは、ダメなやつだ)


なのに。


(……目が、離れねえ)


視線を逸らす理由が、もう見つからない。


エリオは立ち上がる。


その動き一つで、周囲の視線が揺れる。


本人だけが、それに気づいていない。


「行くぞ」


当たり前のように言うエリオをみて、ガイは一瞬、言葉を失う。


「……ああ」


結局、従う。


並んで歩き出す。


距離は、変わらないはずなのに。


「……」


妙に近く感じる。


いや、違う。


(……意識してるのは、こっちか)


小さく息を吐く。


前を見る。


だが。


どうしようもなく、横が気になる。


「……クソが」


小さく吐き捨てる。


その声に、誰も気づかない。


ただ一人を除いて。


「大変だな」


レオンの声。


振り向かない。


「……何がだ」


「全部だよ」


楽しそうな声。


だが、その言葉の意味は——


分かってしまっていた。


光の中へと歩き出す。


もう、元には戻れない。


そんな確信だけが、静かに積み重なっていった。


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