残るもの
夜。
簡易の野営地。
火は小さい。
音は、風と薪のはぜる音だけ。
エリオは既に眠っている。
規則正しい呼吸。
警戒は——薄い。
(……無防備すぎる)
ガイは小さく息を吐く。
視線が向く。
無意識に。
(……近い)
同じ空間。
同じ距離。
本来なら、落ち着かない。
だが——
(……違うな)
昼間のことを思い出す。
腕。
血。
触れた感触。
(……ただの処置だ)
そうだ。
怪我をした。
だから手当てした。
理由は明確。
なのに。
(なんで、残ってる)
視線を落とす。
そこには、固く傷だらけな自分の手。
(昔からだ)
——殴らなければ、奪われる。
——踏み込まれれば、終わる。
子どもの頃の記憶。
狭い路地。
濁った空気。
誰も信用しない。
誰も近づけない。
触れられる前に、殴る。
それが当たり前だった。
「……」
仲間ができたのは、ずっと後だ。
同じようなやつら。
必要だから組む。
それだけだった。
ある時。
無茶をした。
前に出すぎた。
無理に踏み込んだ。
結果、腕を痛めた。
「……チッ」
その時も、誰も何も言わなかった。
当たり前だ。
自分のミスだ。
誰も関係ない。
それでいいと思っていた。
——なのに。
「その力の入れ方は無駄だ」
唐突に言われた言葉。
思い出す。
あの時。
当然のように触れてきた手。
躊躇がなかった。
遠慮もなかった。
踏み込んできた。
(……普通は、しねえだろ)
距離がおかしい。
だが。
(……嫌じゃなかった)
むしろ。
(……止めなかった)
視線が上がる。
エリオを見る。
何も知らないまま、静かに眠っている。
(……なんなんだ、あいつは)
理解できない。
だが。
(……目が離れねえ)
わずかに、眉が寄る。
(……面倒なことになったな)
火が、小さく弾けた。




