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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第二章 問題が生まれる関係
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燃える王城

王都に響く警鐘は、止まらなかった。


――ゴォォォン……

――ゴォォォン……


腹の底まで震わせるような重い鐘の音が、王城を中心に街全体へ広がっていく。


赤い火の手。


夜空を焦がすように立ち昇る炎は、王城外壁の一角——西塔付近から上がっていた。


「西塔だ!!」


カイルが走りながら叫ぶ。


普段の穏やかさはない。


その声には、明確な焦りがあった。


石畳を蹴る音が四つ、重なる。


ガイが先頭。


そのすぐ隣にエリオ。


後方にレオン。


そして中央を走るカイル。


兵たちが混乱の中、道を開ける。


「消火班を回せ!!」


「西側封鎖!!」


「侵入者を探せ!!」


怒号。

悲鳴。

混乱。


だがエリオの思考は、逆に冷えていく。


(火災は陽動)

(目的は別)


視線を上げる。


燃えているのは西塔。


だが——火の広がり方が妙だった。


(燃焼速度:不自然)

(延焼目的ではない)


「ガイ」


短く呼ぶ。


「なんだ!」


「火は目くらましだ」


ガイの目が細まる。


エリオは続ける。


「本命は別にある」


レオンがすぐ反応する。


「……だろうな」


走りながら、王城全体を見る。


そして——舌打ち。


「っ、クソ」


「王族区画か」


その一言で、カイルの顔色が変わる。


「……父上」


次の瞬間。


カイルの速度が上がる。


ガイが叫ぶ。


「単独で突っ込むな!!」


だが——


遅い。


その時だった。


――ドゴォォン!!!


爆音。


王城正門横。


巨大な石壁が内側から崩れた。


破片が飛び散る。


兵たちが吹き飛ぶ。


悲鳴。


その煙の中から——


「……派手ですね」


低く、静かな声。


聞き覚えのある声。


煙の向こう。


炎を背に、一人の男が立っていた。


アルヴァン・デルク。


黒い外套。


乱れのない姿。


まるでこの混乱すら“計画通り”だと言わんばかりの静かな存在感。


周囲には、仮面をつけた武装兵。


王都兵ではない。


私兵——いや。


「デルク家直属か」


レオンが低く言う。


アルヴァンは、ゆっくりと視線を上げる。


そして——


真っ直ぐ、カイルを見る。


「お久しぶりです」


穏やかに。


だが、その声に温度はない。


「第十王子殿下」


沈黙。


その場の空気が、凍る。


兵たちの顔色が変わる。


「第……十王子?」


「まさか……」


「失踪した……?」


ざわめき。


隠されていた事実が、最悪の形で広がる。


カイルの表情が強張る。


(最悪だ)


正体を明かされたことではない。


“この場”で明かされたことが問題だった。


アルヴァンは一歩、前へ出る。


「随分と自由を満喫されたようで」


その言葉は、責めるでもなく。


ただ——断罪。


「立場を捨て、責務から逃れ、好きに生きる」


さらに一歩。


「羨ましかったですよ」


その瞬間。


空気が、変わる。


初めて。


アルヴァンの感情が、滲む。


怒り。

嫉妬。

憎悪。


「私は、捨てられなかった」


低く。


押し殺した声。


「国のために。王のために。民のために」


「忠誠を誓い、家に縛られ、立場を全うし続けた」


「なのに貴方は」


一拍。


その目が、鋭く歪む。


「逃げた」


完全な憎悪。


「それでも、許されると?」


カイルは、動かない。


だが——逃げない。


真正面から、その視線を受け止める。


「……逃げた」


静かに。


認める。


「そう思われても仕方ない」


ガイが目を見開く。


レオンも黙る。


だがカイルは続ける。


「でも」


その瞬間——


風が吹く。


乱れた前髪の奥。


その瞳に、確かな意志が宿る。


「俺は、生き方を選んだ」


アルヴァンの眉が動く。


カイルは、はっきりと言う。


「立場のために生きるんじゃない」


「自分の意思で、生きるためにここにいる」


静寂。


兵たちすら、息を呑む。


アルヴァンは数秒、黙る。


そして——


笑った。


だが、それは穏やかさではない。


「……やはり」


小さく。


「理解できない」


その瞬間。


手が上がる。


「捕らえろ」


命令。


仮面兵たちが、一斉に動く。


「来るぞ!!」


ガイが剣を抜く。


火花。

衝突。

金属音。


レオンが短剣を抜き、影のように消える。


「雑魚は任せろ」


エリオは——


動かない。


ただ一人。


アルヴァンだけを見る。


(対象確認)

(危険度最大)


アルヴァンもまた、エリオを見る。


「……貴方は」


少しだけ残念そうに。


「そちら側ですか」


エリオは短く答える。


「当然だ」


次の瞬間——


踏み込む。


爆発的な速度。


仮面が月光を反射する。


アルヴァンの目が、初めてわずかに見開く。


(速い)


エリオの刃が届く——


寸前。


――ギィン!!


止められる。


アルヴァン自身ではない。


背後から現れた護衛が、防いだ。


だが。


エリオは止まらない。


「邪魔だ」


低く。

二撃目。

三撃目。


圧倒的速度。


護衛が崩れる。


アルヴァンが、初めて後退する。


一歩。


その事実に、周囲が息を呑む。


(アルヴァンを下がらせた)


エリオは告げる。


「カイルには触れさせない」


明確な拒絶。


その言葉に——


カイルの思考が、一瞬止まる。


ガイが笑う。


「……上等」


レオンも、血を払って笑う。


「完全に囲われてんな、王子様」


アルヴァンは静かに立つ。


だがその目は——


より深く、鋭く。


「……なるほど」


低く。

「ますます欲しくなった」


その言葉が、誰に向けたものなのか。


理解した瞬間——


空気がさらに危険を孕む。


王城炎上。

王族暴露。

反逆開始。


そして——


アルヴァン・デルクの執着は、ついに“カイル”だけでなく、“エリオ”にも向き始めていた。


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