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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第二章 問題が生まれる関係
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歪んだ忠誠

爆発の余韻。


焦げた木材の匂い。


砕けた石片。


燃えかけた絨毯の端が、赤黒く燻っている。


先程まで“貴族の威厳”を保っていた屋敷は、今や見る影もなかった。


静寂——


いや、違う。


静かすぎる。


本来なら、爆発の直後だ。


屋敷の者が叫び、兵が雪崩れ込み、混乱が起きていい。


だが——ない。


エリオの思考が鋭くなる。


(……不自然)


視線を巡らせる。


床。

割れた窓。

壁。

暖炉。


(被害範囲が限定的過ぎる。目的は殺害ではないのか…)


つまり——


「……確認」


小さく呟く。


ガイが振り向く。


「何かわかったか」


エリオは短く答える。


「俺たちの力量を見ている」


沈黙。


その言葉に、空気がさらに重くなる。


レオンが壁を蹴る。


「クソ性格悪ぃな」


軽い言い方。


だが、目は笑っていない。


「襲撃、誘導、接触、罠」


指折り数える。


「全部、“試験”かよ」


カイルが静かに立ち上がる。


爆風で乱れた髪をかき上げながら、低く言う。


「ええ」


その声は、いつもより少しだけ冷たい。


「彼は昔からそういう人です」


エリオの視線が向く。


(過去を知っている)


レオンも気づく。


「……やっぱ知り合いか」


ガイは舌打ちする。


「説明しろ」


短く。


だが、命令に近い。


カイルは数秒、黙る。


普段の彼なら、少し笑って誤魔化したかもしれない。


だが——今回は違った。


静かに。


逃げずに。


真正面から言葉を選ぶ。


「アルヴァン・デルク公爵」


その名を、改めて口にする。


「王族に最も忠誠を誓っていた男です」


一拍。


「少なくとも——以前は」


ガイが眉を寄せる。


「以前?」


カイルは壊れた窓の外を見る。


遠く、王城が見える。


王都の中心。


権力の象徴。


「デルク家は代々、王家を支えてきた名門です」


淡々と。


「戦も、政治も、粛清も」


その言葉に、重みがある。


「国のためなら、自分を削ることすら誇りにする」


レオンが鼻で笑う。


「真面目すぎるタイプか」


「ええ」


カイルは否定しない。


「彼は“正しい”んです」


その言葉に、皮肉はなかった。


むしろ——理解がある。


「国のために生きる。立場を全うする。責務から逃げない」


静かに。


「だからこそ——俺が許せなかった」


空気が止まる。


ガイが視線を向ける。


レオンも黙る。


エリオは、ただ聞く。


カイルは続ける。


「俺は王族でありながら、その立場を捨てた」


「決められた未来から逃げた」


「自由を選んだ」


一つずつ。


まるで、自分を裁くように。


「彼にとってそれは」


小さく息を吐く。


「国への裏切りだった」


沈黙。


重い。


ガイが吐き捨てるように言う。


「だから殺す?」


怒りが混じる。


「そんな理由で仲間狙うのかよ」


カイルは首を横に振る。


「違います」


低く。


「殺害は“結果”です」


その言葉に、全員の目が変わる。


「本来の目的は——捕獲」


エリオの思考が加速する。


(生存優先)

(公開処分、または利用)


カイルは頷く。


「王族が自由に生きる前例を、消したいんです」


一拍。


「“立場から逃げても許される”と思わせないために」


理解。


あまりにも、理解できてしまうほど。


アルヴァンは、個人を憎んでいるだけじゃない。


思想そのものを否定している。


レオンが低く笑う。


「重てぇな」


だがその目は鋭い。


「要するに」


肩を回す。


「お前を見せしめにしたいってことだろ」


カイルは静かに答える。


「そうです」


はっきりと。


迷いなく。


ガイが前に出る。


「上等だ」


低い声。


「なら、その前にぶっ潰す」


感情が、分かりやすい。


だが——強い。


エリオは、静かに口を開く。


「合理的ではある」


全員が見る。


「アルヴァンの思想は理解可能」


淡々と。


「だが——」


そこで一瞬、言葉が止まる。


エリオ自身も、無意識だった。


「カイルを害するなら」


空気が変わる。


仮面の奥。


視線が鋭くなる。


「排除する」


完全な宣言。


沈黙。


その場の空気が、一瞬で変わった。


カイルの思考が、止まる。


ガイが目を見開く。


レオンは——


ふっと笑った。


「はは……」


小さく。


「いいな、それ」


カイルは、言葉が出ない。


ただ——


ほんの少しだけ。


目元が揺れた。


(……守る、と)


理屈。

任務。

合理性。


きっとエリオはそう分類している。


だが、それでも。


「……ありがとうございます」


今度は、はっきりと。


その瞬間——


――ゴォォォン……


王都全体に響く鐘の音。


重い。


警戒音。


全員の顔つきが変わる。


レオンが舌打ちする。


「次だ」


窓の外。


王城方面。


赤い火の手。


ガイが顔を上げる。


「っ……王城!?」


カイルの表情が凍る。


「まさか——」


エリオの思考が即座に切り替わる。


(陽動)

(本命はまた別か)


アルヴァンの目的。


カイルの捕獲。


王族への反逆。


そして——


“王そのもの”への宣戦布告。


レオンが笑う。


だが今度は、完全に戦場の顔。


「派手に来たな、クソ貴族」


ガイが剣に手をかける。


「行くぞ!!」


カイルは一瞬だけ王城を見る。


その横顔に、“王子”が宿る。


逃げた王族ではない。


選んだ男の顔。


エリオは、その隣に立つ。


(任務更新)


対象:アルヴァン・デルク

優先:最上位

追加——


(護衛対象はカイル)


そして四人は、同時に駆け出した。


燃え上がる王都の中心へ。


アルヴァン・デルクの“歪んだ忠誠”が、ついに国そのものを呑み込もうとしていた。


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