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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第二章 問題が生まれる関係
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言葉にする覚悟

その夜。


王都の喧騒が少しだけ遠のいた時間、宿舎の裏手にある中庭は静まり返り、石畳に落ちる月の光だけが淡く空間を照らしていた。


ガイはそこに立っていた。


腕を組んだまま、何もせず、ただじっと前を見ている。


だがその視線は、何かを見ているようでいて、実際には内側へと向いていた。


(……くそ)


小さく、舌打ちが漏れる。


昼間の光景が何度も頭の中で再生される。


レオンの言葉。


カイルの正体。そこからのあいつの覚悟。


そして——


エリオの一言。


「影響を受けている。お前から」


思い出した瞬間、胸の奥が強く掴まれる。


嬉しいはずなのに。


それだけで終わらない。


(だからって、あのまま何も言わねぇとか)


苛立ちが混ざる。


自分にも。


エリオにも。


そして、動けなかったあの場にも。


ガイは大きく息を吐き、顔を上げる。


「……逃げてんじゃねぇよ」


自分に言い聞かせるように呟いた、その時。


足音が一つ。


規則的で、無駄のない音。


振り返るまでもない。


「……エリオ」


名前を呼ぶ。


エリオは数歩の距離で止まる。


仮面越しの視線が、まっすぐ向けられる。


「用件は何だ」


相も変わらずいつも通りの声。


だが——


それが、今は逆に引っかかる。


ガイは一度、言葉を飲み込む。


喉の奥で詰まる。


だが。


今度は逃げない。


「……さっきの話なんだが」


短く切り出す。


エリオの思考が動く。


「選択の件か」


「……それもある」


曖昧に返す。


だが、それだけでは終わらせない。


一歩、近づく。


距離が縮まる。


月明かりの中、互いの影が重なる。


「お前さ」


低く言う。


「なんで、ああいうこと平気で言うんだよ」


エリオがわずかに首を傾ける。


「事実を述べただけだ」


即答。


迷いがない。


ガイは一瞬、言葉を失う。


そして——苦く笑う。


「……ほんと、それだよ」


頭をかく。


視線を逸らす。


だが、すぐに戻す。


逃げない。


「普通はよぉ」


言葉を選びながら続ける。


「そういうの、もっとこう……考えてから言うもんだろ」


一拍。


「言われた方がどうなるか、とか」


エリオは少しだけ黙る。


そして。


「考慮していない」


はっきりと言う。


ガイは息を吐く。


呆れと、納得が混ざったような吐息。


「だろうな」


そして。


一歩、さらに近づく。


もう、手を伸ばせば触れられる距離。


「……だから言う」


低く。


真っ直ぐに。


「ちゃんと鈍いお前でも分かるように」


エリオの思考が止まる。


(……重要発言の前兆)


そう認識する。


ガイは拳を軽く握る。


ほんの少しだけ震える指。


それでも、止めない。


「俺は」


一瞬、息を吸う。




「お前が好きだ」




はっきりと。


逃げずに。


言い切る。


空気が止まる。


完全に。


エリオの思考が停止する。


(……好き)


未知の領域。


分類不可。


ガイは続ける。


止まらない。


「ただ一緒にいるとかじゃねぇ」


一歩、詰める。


距離が消える。


「隣にいたいとか、そんな軽いもんでもねぇ」


視線を逸らさない。


「他のやつに取られるは、普通に嫌だ、腹が立つ」


正直に、そのまま伝える。


「カイルでも、レオンでも誰だろうと」


そして——


「俺は、お前を選んでる」


強く、言い切った。


沈黙。


エリオの思考が、必死に動く。


(選ばれる)

(対象指定)

(感情付随)


処理できない。


だが。


無視はできない。


ガイは、少しだけ視線を落とす。


ほんの一瞬だけ。


そして、すぐに戻す。


「だから」


低く、静かに。


「お前も、ちゃんと選べ」


押し付けたくはない。


だが、向き合ってほしい。


エリオは動かない。


答えも出ない。


だが——


確実に。


揺れている。


「……理解に時間が必要だ」


正直に言う。


ガイは小さく息を吐く。


「だろうな」


苦笑する。


だが。


さっきまでとは違う。


どこか、吹っ切れたように。


「いい」


短く言う。


「待つ」


一拍。


「でも」


少しだけ目を細める。


「もう遠慮しねぇからな」


宣言。


そのまま、くるりと背を向ける。


数歩、歩き出す。


そして止まる。


振り返らないまま。


「……逃げんなよ、覚悟しておけ」


小さく言い残し、去っていく。


足音が遠ざかる。


残るのは、エリオ一人。


月明かりの中で、立ち尽くす。


(……好き)


言葉が、残る。


消えない。


胸の奥に、確かに残る。


初めての感覚。


処理不能。


だが。


無視できない。


エリオは、わずかに目を伏せる。


(……選択)


避けられない。


完全に。


物語は——もう戻らないところまで来ていた。


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