秘密
いよいよ、ナルディア国王への謁見の時が来た。
赤い絨毯を通り、玉座の前へ。
三人は膝をつく。
多くの貴族に囲まれているが、その場は静寂――布の擦る音さえもよく、聞こえてくる。
「面を上げよ」
三人が顔を上げる。
目の前には、黒髪に白を混じらせ、整えられた髭をたくわえた初老の王。
深く刻まれた皺と鋭い眼差しが、長い年月と揺るがぬ威厳を物語っている
(これがナルディアの王か)
エリオは思った。
その瞬間。
王の視線が——一瞬だけ揺れる。
ほんのわずかに、向いた先は。
エリオではなく——
カイル。
カイルの呼吸が、わずかに止まる。
一瞬。
本当に一瞬だけ。
だが。
普段の彼なら見せない“硬さ”が走る。
すぐに消える。
何事もなかったかのように。
「此度の任務、見事であった」
王は言う。
だが。
視線はカイルから完全には外れない。
(……確認されている)
カイルはそう理解する。
だが、完璧に繕い表情は変えない。
側近が前へ出る。
「今回の任務、放置していたら我が国にも
多大な損害があったとの事、よって王より功績を称え褒賞を与える」
名が呼ばれる。
「ガイ」
一歩前へ。
「エリオ」
エリオが続く。
そして。
「——カイル」
その瞬間。
ほんのわずかに。
“呼び方”が違った。
通常よりも、低く、それでいて少しだけ温かみをもっていた。
空気が、揺れる。
カイルは立ち上がる。
一歩、前へ。
乱れはなく、足取りは一定。
だが。
王の前に立つ、ほんの一瞬だけ。
視線が交わる。
王が、わずかに口を動かす。
「……久しいな」
音にならないほどの、小さな声。
カイルの瞳が、わずかに揺れる。
一瞬。
だが。
確実に。
(わかっていたが……なぜ今呼んでくるんだ)
思考が走る。
だがすぐに切り捨てる。
ここで反応するわけにはいかない。
「光栄です」
完璧な礼で返す。
何も知らない者として。
箱が差し出される。
受け取る。
手の震えはない。
だが。
ほんのわずかに。
指先に力が入る。
王はそれを見る。
そして。
何も言わない。
ただ、静かに目を細める。
「下がれ」
カイルは一礼し、元の位置に何事もなかったように戻る。
だが。
戻った直後。
ほんの一瞬だけ。
息を吐く。
誰にも気づかれないほど小さく。
エリオが横を見る。
カイル。
いつも通りの表情。
乱れはない。
だが。
ほんのわずかに。
“違和感”が残る。
(……変化)
エリオはそう認識する。
理由は分からない。
だが。
確かに、何かがあった。




