均衡の崩れ
3人はそもそも今日、集落の功績から王城での表彰式に呼ばれている。
城へ向かう廊下は、外の喧騒とは切り離されたように静かだった。
石の床に、三人の足音だけが規則的に響く。
高い天井。
差し込む光は白く、どこか冷たい。
常に前を歩き続けるガイ。
距離も、一定。
(継続中)
カイルは心の中でため息をついた。
視線をわずかに横へ向ける。
隣には、エリオ。
仮面の奥の表情は見えないが彼の内面は感じ取れる。
わずかに、思考が揺れている。
歩幅の微細なズレ。視線の落ち方。
いつも見てきたから分かってしまう、何もかもが普段と違う。
(影響を受けていますね)
原因は一つ。
前を歩く男。
――ガイ。
カイルは小さく息を吐く。
(あの人も、分かりやすい人だ)
あれだけ感情を出している。
距離を取っているのも、露骨だ。
だが。
1番届いて欲しい相手に
(届いていない)
その事実に、ほんのわずかに苦笑する。
(……不憫だな)
思わず、そう思う。
ガイのことを。
だが同時に。
胸の奥に引っかかる。
(余計なことを言った)
昼間の言葉がよぎる。
「誰の言葉で動いていますか」
あれは、本来なら伝えなくて良かった言葉だった。
知らない方が、自分の為にはなっていたと思う。
ガイは気づかず。
エリオは理解せず。
その状態で、成り立っていた。
(自分で崩してしまった)
理由は明確。
(放っておけなかった)
中途半端なまま進むのが、耐えられなかった。
どちらに対しても。
——だが。
カイルは視線を落とす。
数歩分、沈黙する。
そして。
ゆっくりと顔を上げる。
(違う)
それだけではない。
もっと単純で、もっと、利己的だ。
カイルは歩幅をほんのわずかに緩める。
エリオと完全に並ぶ位置へ。
距離が近い。
肩が触れるか触れないか。
(譲る気はない)
その結論が、静かに落ちる。
ガイがどれだけ想っていようと。
関係ない。
エリオが理解していなかろうと。
関係ない。
「エリオ様」
名前を呼ぶ。
エリオが視線を向ける。
その瞬間、迷いはない。
「一つ、訂正してもいいですか?」
穏やかな声、だが、逃げはない。
エリオは頷く。
「許可する」
カイルは一瞬だけ息を吐く。
そして。
「先ほどの――言葉ですが、私とガイどちらの言葉を今のあなたは優先しますか?」
はっきりと言う。
エリオの思考が、わずかに止まる。
そして、カイルは続ける。
「あなたに俺は選ばれたい、まだあなたにとってが問題ない立場でも…それでもあなたの隣に立てる男でありたいんです」
静かに。
だが強く。
「誰の隣に立つのか考えて下さい」
エリオの視線が、ほんのわずかに前へ動く。
ガイの背中へ。
カイルはそれを見る。
理解する。
だが、引かない。
「ただし」
一歩だけ距離を詰める。
完全に並ぶ。
逃げ場を塞ぐように。
「その選択肢の中に、俺も含めてください」
低く、はっきりと言う。
エリオの思考が止まる。
完全に。
処理できない。
分類できない。
カイルはそれ以上言わない。
視線を外す。
元の位置へ戻る。
だが。
もう同じではない。
前方。
大きな扉が見えてくる。
謁見の間。
兵士が立っている。
ガイが足を止める。
わずかに振り返る。
ほんの一瞬だけ。
視線が交わる。
だがすぐに逸らす。
「……ここだ」
それだけを、短く言う。
カイルはその背中を見て、小さく息を吐く。
(さて)
ここから先は、別の戦いだ。
だが。
さっき決めたことは変わらない。
(選ばせる)
そのためなら。
この場も、利用する。
扉が、ゆっくりと開かれる。
光が差し込む。
次の瞬間。
三人は王の前へと進む。




