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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第二章 問題が生まれる関係
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新たな出会い

王都の門をくぐった瞬間、足元の石畳に響く音が変わる。


乾いた土の感触は消え、硬く整えられた石の上を歩く規則的な靴音だけが、妙に鮮明に響いた。


門の内側には、左右に整列した兵が並び、通る者すべてに視線を向けている。

ただの警備ではない。


“通していい人間か”を見ている目だ。


(……選別)


エリオは歩幅を変えず、そのまま門を抜ける。


その後ろ、半歩分ずらしてガイが歩く。


さらに一歩遅れて、カイル。


自然にできた隊列。


だが、その位置関係はそれぞれの意識をそのまま表していた。


門を抜けた先は、大通り。


左右には高い建物が並び、上階の窓やバルコニーからも人の気配がある。


商人、貴族、使用人、兵。


混ざり合っているが、視線だけは共通していた。


——測る目。


エリオの仮面に、一瞬視線が集まる。


そして逸れる。


だが完全に消えるわけではない。


「……落ち着かねえな」


ガイが小さく呟く。


歩きながら、視線だけを横に流す。


誰かを睨むでもなく、ただ“全部把握している”動き。


「視線が多いだけだ」


エリオは前を見たまま答える。


「敵意はない」


「だから面倒なんだろ」


ガイは鼻で笑う。


その言い方には、明確な不快感がある。


“見られる側”に慣れていないわけではない。

だが。


(好きじゃねえ)


その感情は隠していない。


カイルは少し後ろからその二人を見ている。


歩幅を合わせつつ、周囲の人間の動線を確認し、エリオに不用意に近づく者がいないかをさりげなく視界に入れている。


(密度が高い)


一歩間違えれば接触は避けられない。


王都はそれほど“距離が近い”。


その時。


人の流れの中から、一人の男が自然に進路を変える。


ぶつからない。


だが、確実にこちらに向かってくる。


歩幅は一定。


速度も変えない。


“偶然を装って近づく動き”。


カイルの目が細くなる。


(来る)


だが、止める前に。


男はすでにエリオの正面、わずかに斜めの位置に立っていた。


距離は一歩分。


近すぎず、遠すぎない。


「——なるほど」


静かな声。


よく通る。


無理に張っていないのに、自然と耳に入る声音。


エリオは視線だけを動かす。


男を見る。


年齢は二十代後半。


黒に近い濃紺の髪を後ろに流し、装飾は控えめだが質の良い衣服を身にまとっている。


立ち姿に無駄がない。


そして何より。


“距離の取り方を知っている人間”。


「話には聞いていましたが」


男は一歩だけ近づく。


足音はほとんどしない。


「随分と……目を引く方だ」


その視線が、エリオの仮面で止まる。


ゆっくりと。


舐めるようにではない。


だが、確実に“観察している”。


その瞬間。


ガイが横から一歩踏み出す。


エリオと男の間に、わずかに身体を入れる位置。


「用があるなら手短にしろ」


低く、はっきりと遮る。


肩がわずかに前に出ている。


完全に“止める構え”。


だが。


男はそれを見て、ほんの少しだけ笑う。


余裕のある、崩れない笑み。


「失礼」


軽く手を上げる。


降参の形。


だが、後ろには引かない。


「名乗りが遅れました」


視線はエリオから外さない。


ガイの存在を“壁として認識していない”。


「——アルヴァン・ディルク」


その名前が落ちる。


カイルの呼吸が一瞬だけ止まる。


(……やっぱり)


王都上位貴族。


関わるべきではない相手。


だが。


アルヴァンは気にしない。


「あなたが今回の召集対象ですね」


自然に言う。


まるで確認ではなく、“既に知っている”前提。


エリオは短く答える。


「そうだ」


アルヴァンは小さく頷く。


そして。


ほんのわずかに、距離を詰める。


ガイの肩に触れないギリギリ。


「ええ、納得しました」


声が少し低くなる。


「これは確かに、“呼ばれる”」


その言い方。


評価。


選別。


そのすべてを含んでいる。


ガイの手が、わずかに動く。


拳を作りかける。


「何が言いたい」


一歩、踏み込む。


だが。


アルヴァンは視線すら動かさない。


完全に無視。


「仮面」


ぽつりと呟く。


エリオだけを見る。


「外さないのですか?」


空気が止まる。


カイルの指が、わずかに動く。


ガイの視線が鋭くなる。


だが。


エリオは迷わない。


「必要がない」


即答。


アルヴァンは、ほんの一瞬だけ沈黙する。


そして。


「そうですか」


あっさり引く。


だが。


その目は。


明らかに変わっていた。


“興味が深くなった目”。


「では」


一歩下がる。


人の流れに自然に戻る。


だが最後に。


「いずれ、“必要になる時”に」


そう言い残す。


意味を残して。


そのまま、人混みに溶ける。


見えなくなる。


沈黙。


ガイが舌打ちする。


はっきりと。


「気に入らねえ」


短く吐き捨てる。


カイルは視線を落とし、ゆっくり息を吐く。


(最悪だ)


ああいう相手は。


距離を詰めるのが上手く。


引き際も完璧で。


しかも——


“諦めない”。


エリオは、消えた方向をしばらく見ていた。


(……興味)


理解する。


あの男は、自分に興味を持った。


それは事実。


だが。


(問題ない)


そう結論づける。


その判断が。


この先、崩れるとも知らずに。



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