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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第二章 問題が生まれる関係
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王都

夕刻から少し時間が経ち、空の色がゆっくりと夜へと傾き始める中。


集落の外れにある簡易の給水所には、任務終わりの兵たちがぽつぽつと集まり始めていた。


桶に落ちる水の音が、規則的に響く。


その中に、エリオの姿がある。


仮面はつけたまま。


いつも通りの距離感で、周囲と一定の間を保っている。


(問題ない)


状況は安定している。


人の数も多すぎない。


干渉のリスクも低い。


そう判断して、水に手を伸ばす。


その瞬間。


横から、別の手が先に器を取る。


「これ、使え」


低い声。


視線を向けるまでもない。


ガイだ。


自然な動きで器に水を汲み、そのままエリオの前に差し出している。


距離が、近い。


必要以上に。


エリオはわずかに視線を上げる。


「自分でできる」


短く言う。


だが、ガイは引かない。


「知ってる」


即答。


そのまま器を引かずに、わずかに距離を詰める。


「でも今はこっち使え」


理由はない。


説明もない。


ただ、“そうさせる”言い方。


エリオは一瞬だけ沈黙する。


(……強い)


拒否する理由はある。


だが、それを通すよりも、この場を収める方が合理的だと判断する。


ゆっくりと手を伸ばす。


器に触れる。


同時に。


指が、かすかに触れる。


ほんの一瞬。


避けられる距離だったはずなのに、なぜかそのまま重なる。


(……近い)


エリオの思考がわずかに止まる。


ガイはそのまま離さない。


ほんの一拍分だけ、長く。


そして、ようやく手を離す。


「……飲め」


短く言う。


視線は逸らしたまま。


エリオは器を受け取る。


仮面に手をかける。


ほんのわずかに、動きが止まる。


(問題ない)


周囲の視線。


距離。


関係性。


すべて確認する。


問題はない。


ゆっくりと仮面を外す。


水を口に運ぶ。


その間も。


ガイの視線が、外れない。


真正面から、見ている。


隠す気も、逸らす気もない。


(……なぜ見ている)


エリオの中に、小さな引っかかりが生まれる。


飲み終え、仮面を戻す。


その動作の途中。


ガイの手が伸びる。


留め具に触れる。


「貸せ」


短く言いながら、そのまま留め直す。


距離は、ほぼゼロ。


さっきよりも近い。


呼吸が触れそうな距離。


(……またか)


エリオの中で、わずかに感情が動く。

理由は分からない。


だが。


(――邪魔されている)


さっきと同じ感覚。


カイルと話していた時。


中断された時。


同じ種類の引っかかり。


「……自分でできる」


もう一度言う。


だが、さっきよりわずかに低い。


ガイは止まらない。


「知ってる」


同じ返答。


だが今度は。


「でもやる」


短く付け足す。


理由は言わない。


ただ、そうする。


それだけ。


留め具を直し終え、ゆっくりと手を離す。


だが。


距離は、離れない。


そのまま、見ている。


真正面から。


逃がさない距離で。


エリオは、ほんの一瞬だけ視線を逸らす。


(……やりづらい)


初めての感覚。


今までなかった違和感。


合理では説明できない、微かな乱れ。


その時。


「エリオ様」


横から、カイルの声が入る。


振り向く。


カイルが立っている。


いつも通りの距離で。


だが、その視線は真っ直ぐガイを捉えている。


一歩、踏み出す。


「それ、俺がやります」


穏やかな声。


だが、引かない。


ガイの視線が、ゆっくりと動く。


カイルを見る。


数秒。


何も言わない。


その沈黙が、空気を重くする。


「必要ない」


ガイが言う。


短く、はっきりと。


カイルは一瞬だけ目を細める。


だが、すぐに表情を戻す。


「必要かどうかは、エリオ様が決めることです」


正論。


逃げ道のない言葉。


エリオは、そのやり取りを見ている。


二人の間にある温度を、正確には理解できないまま。


(……非効率だ)


そう思う。


だが同時に。


(どちらか一方にする必要がある)


そんな判断が浮かぶ。


理由は分からない。


だが、放置するとさらに状況が複雑になると感じる。


エリオは口を開く。


「ガイ」


名前を呼ぶ。


ガイの視線が戻る。


「手を離せ」


短く言う。


命令に近い声音。


ガイは一瞬だけ止まる。


ほんのわずかに。


だが、その後ゆっくりと手を離す。


視線は逸らさない。


エリオを見たまま。


その一瞬。


空気が張り詰める。


カイルはそれを見て、静かに息を吐く。


(……やっぱり)


確信する。


この関係は、もう“何もない”では済まない。

そして。


(負ける気はない)


胸の奥に残る小さな痛みを、そのまま抱えながら。


一歩、前に出る。


エリオの隣へ。


距離を詰める。


今度は、自分の意思で。


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