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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第一章 問題ない関係
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見えてる側

夕方。


陽が傾き、訓練場の影が長く伸びていく中で、地面に残った熱だけがじわりと空気を押し上げていた。


人の気配はまばらになり、武器を片付ける音や遠くの足音が断続的に響く中で、ガイは壁にもたれるように立ち、片足で地面を軽く蹴りながら、何度も同じ場所を見ては視線を外していた。


指先が無意識に手袋の縫い目をなぞる。

落ち着かない。


(……なんだよ、あれ)


思い出す。


さっきの距離。


手を伸ばした時の近さ。


そして——


「……話の途中だった」


あの、ほんのわずかに低かった声。


ガイは小さく舌打ちをし、頭を掻きながら顔をしかめる。


「……意味分かんねえ」


独り言のように吐き出したその瞬間。


「顔、うるせえぞ」


背後から、軽く石でも投げるような調子で声が落ちてくる。


ガイは振り返らない。


靴音で分かる。


レオンだ。


「見てるこっちが疲れる」


言いながら、レオンは隣に並ぶでもなく、少し斜め後ろの位置に立ち、腕を組んでガイの様子を横目で眺める。


ガイは肩だけで息を吐き、視線を逸らしたまま答える。


「……何の話だ」


レオンは軽く鼻で笑い、顎で遠くを示す。


「あっち」


視線の先。


少し離れた場所で、カイルがエリオに何かを話している。


距離は近い。


さっきと同じくらい。


ガイの指先が、ぴくりと止まる。


それを見て、レオンはわずかに口角を上げる。


「分かりやすいな」


「何がだ」


低く返す声。


だが、完全には隠せていない。


レオンは壁に肩を預け、軽く首を傾ける。


「割り込み方、露骨すぎ」


その言葉に、ガイの眉が寄る。


反射的に視線を逸らし、足元の砂を軽く蹴る。


「任務だ」


短く言い切る。


だがその言葉に、レオンは間を置かずに笑う。


「便利な言葉だな」


軽く手をひらひらと振る。


「全部それで済ませる気か?」


ガイは答えない。


代わりに、拳を握りかけて、すぐに力を抜く。


その一瞬の動きを、レオンは見逃さない。


「さっきもそうだろ」


淡々と続ける。


「あーあ。さっきカイルが触ろうとした瞬間、腕引いてたのは誰だったかなぁ」


ガイの視線がわずかに揺れる。


「無意識でやってる分、タチ悪いな」


軽く笑う。


ガイは舌打ちし、壁から身体を離すと一歩だけ前に出る。


「だから何だ」


振り返らずに言う。


レオンはその背中を見ながら、小さく肩をすくめる。


「別に」


あっさりと返す。


だが。


一拍置いて。


「いつ気づくんだ?」


その言葉に、ガイの足が止まる。


完全に止まるわけではない。


半歩だけ、動きが鈍る。


「……何をだ」


振り返らないまま、低く返す。


レオンは一歩だけ近づき、ガイの横に並ぶ。


距離は近すぎず、遠すぎず。


相手を追い込む位置。


「マジで言ってるなら重症だな」


軽く言いながら、視線を横に流す。


「お前さ」


地面をつま先で軽く叩く。


「それ、もう始まってるぞ」


曖昧な言い方。


だが。


ガイの指先が、わずかに止まる。


「意味が分からねえ」


即答。


だが、さっきより声が低い。


レオンは小さく息を吐く。


「だろうな」


そして、少しだけ顔を近づける。


わざと、聞き逃せない距離まで。


「じゃあ分かりやすく言うか」


そのまま、視線を正面に戻す。


逃げ場はない。


「相手、お前のこと見てねえぞ」


静かに落ちる言葉。


ガイの呼吸が、一瞬だけ止まる。


肩が、ほんの僅かに強張る。


「……は?」


振り返る。


今度ははっきりと。


レオンはその視線を真正面から受け止める。


「見てるのは任務の相手としてだけ」


「それ以上でも、それ以下でもない」


淡々と続ける。


ガイの手が、無意識に握られる。


「お前が何しようが」


「近づこうが、触ろうが」


「全部“問題ない”で終わり」


その言葉に。


ガイの視線が、一瞬だけ逸れる。


思い出す。


“問題ない”


“影響はない”


エリオの声。


「……それの、何が悪い」


低く吐き出す。


だが、声に力はない。


レオンは肩をすくめる。


「別に悪くはねえよ」


あっさりと認める。


そして。


ガイの前に一歩だけ回り込む。


視線を合わせる。


逃げられない位置。


「ただ」


少しだけ目を細める。


「そのままだと、お前は一生そっち側」


言い切る。


ガイの中で、何かが軋む。


視線が揺れる。


言葉が出ない。


数秒の沈黙。


そして。


「……じゃあどうすりゃいい」


気づけば、そう口にしていた。


自分でも驚くほど自然に。


レオンは、ほんの少しだけ笑う。


「やっと聞いたな」


軽く肩を叩く。


そして、そのまま横に並ぶ。


「簡単だよ」


視線は前に向けたまま。


「“問題ある側”になれ」


短く、それだけ言う。


説明はない。


だが。


ガイの中で、何かがはっきりと動く。


拳が、ゆっくりと握られる。


視線が、まっすぐ前を向く。


さっきまでの迷いはない。


(……問題ある側、か)


その言葉が、胸の奥に残る。


消えない。


そして——


ガイはゆっくりと歩き出す。


向かう先は、決まっていた。


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