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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第一章 問題ない関係
21/38

境界

朝の冷たい空気が、まだ漂っている中。


集落の外れに立つ二人の間には、張り詰めた緊張が、はっきりと漂っていた。


見張りの交代前ということもあり、人の気配はほとんどない。


本来であればただ時間を過ごすだけの場所であるはずなのに、その静けさが逆に二人の距離を強調していた。


ガイはすでにそこに立っており、偶然を装うには無理のあるタイミングで現れたエリオに対して、逃げ場を与えないように自然な動きで正面へと回り込む。


「……エリオ」


低く抑えた声で名前を呼ぶが、その奥にあるものまでは隠しきれていない。


エリオは足を止め、いつも通りの温度で短く返す。


「何だ」


その変わらなさが、ガイの神経をわずかに逆撫でする。


ガイは一歩距離を詰めることで空気に圧をかけながら、間を置かずに本題へ入る。


「昨日のことだ、水場で仮面を外したな」


問いではなく確認に近い言い方だったが、エリオは特に否定もせず、あくまで事実として受け取る。


「外した」


あまりにも簡潔な肯定。


それだけで済ませようとする態度に、ガイの眉がわずかに動く。


「……理由は」


声は低いが、その内側には明確な意図がある。


エリオはほんの一瞬だけ間を置き、それは迷いというよりは言葉を整理するための短い処理に近い動きだった。


「水を飲む必要があった」


淡々とした答えであり、間違ってはいない。

だが。


「そういうことを聞いてるんじゃねえ」

ガイの声が一段低くなり、その場の空気がわずかに重く沈む。


さらに一歩踏み込み、逃げ場のない距離に入る。


「なんで“あの場で”外した」


問いの焦点が明確になる。


エリオは視線を逸らすことなく、そのまま答える。


「関係性が崩れないと判断した」


その一言に、短い沈黙が落ちる。


ガイの思考が一瞬止まり、言葉の意味を噛み砕くように眉を寄せる。


「……関係性?」


低く聞き返す声には、理解と同時に苛立ちが滲んでいた。


エリオは変わらない調子で続ける。


「周囲の人間との関係性に影響が出ないと判断したため、問題はないと結論づけた」


あまりにも合理的で、感情の入り込む余地がない説明。


ガイの目が細くなる。


「……誰との関係だ」


試すように問いを重ねる。


エリオはわずかに間を置きながらも、逃げることなく答える。


「その場にいた全員」


曖昧なようでいて、意図的に広く取られた答え。


ガイはさらに距離を詰める。


「医療班の時は外さなかったな」


一瞬、空気が冷える。


だがエリオは揺れない。


「不確定要素が多かったため、関係性に変化が生じる可能性が高いと判断した」


即答だった。


「視線、評価、今後の干渉などの要素が排除できなかった」


理屈は通っている。


あまりにも、きれいに。


「だから外さなかった」


その一貫性が、逆にガイの苛立ちを強くする。


「じゃあ昨日はどうだ」


間髪入れずに詰める。


「影響は限定的であり、関係性が崩れる可能性は低いと判断した」


同じ構造。

同じ温度。

同じ答え方。


その均一さが、かえって不自然に感じられる。


「……カイルがいたな」


ぽつりと落とす。


探るような一言。


エリオは否定しない。


「いた」


それだけ。


ガイの呼吸がわずかに荒くなる。


「そいつの前でも問題なかったってことか」


一歩踏み込んだ問い。


エリオはほんの一瞬だけ思考を挟み——


「影響は軽微と判断した」


と答える。


その瞬間、ガイの中で何かがはっきりと形になる。


「……俺の前はどうだ」


低く抑えた声。


だが、その奥には別の意味が含まれている。

エリオは迷わない。


「任務判断を共有しているため、関係性の変化は制御可能と判断している」


つまり——


「問題はない」


同じ結論。


同じ扱い。


だが。


ガイは笑う。


乾いた、感情を押し殺した笑い。


「……全部“問題ない”で片付けるのか」


吐き捨てるような声。


「そうだ」


即答。


その迷いのなさが、逆にガイの中の何かを刺激する。


「じゃあよ」


一歩、さらに踏み込む。


逃げ場のない距離。


「誰の前なら“問題になる”」


鋭く突き刺す問い。


エリオはわずかに沈黙し——


「不確定要素が排除できない場合」


とだけ答える。


だが。


「違うだろ」


ガイは低く否定する。


視線を強くぶつける。


「お前、“相手”で判断してる」


空気が張り詰める。


エリオは否定しない。


沈黙が、そのまま肯定になる。


ガイの中で、感情がはっきりと形を持つ。


「……気に入らねえな」


ぽつりと落ちる本音。


理由は言語化できない。


だが確かにある。


エリオは静かに返す。


「基準は一定だ」


だがガイは首を振る。


「違う」


一歩、さらに踏み込む。


「曖昧なのはお前の方だ」


視線がぶつかる。


逃げ場はない。


「自覚ねえだろ」


低く、突き刺すように言う。


「誰の前で、何が変わってるか」


その言葉に。


ほんの一瞬だけ。


エリオの視線が揺れた。


だが、それはすぐに消える。


「変わってはいない」


静かな否定。


だがガイは引かない。


「じゃあ証明しろ」


低く、強く言い放つ。


「今ここで外せ」


その言葉は、命令であり、挑発でもあった。


空気が凍る。


数秒の沈黙。


エリオはゆっくりと手を上げる。


仮面に触れる。


動きは正確で、迷いはない。


だが——


ほんのわずかにだけ。


昨日とは違う“間”が、そこにあった。


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