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わけあり仮面騎士様の恋愛事情  作者: ぬー
第一章 問題ない関係
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気づき

夜の帳が完全に降り、集落はすでに静まり返っていた。


ところどころに灯された焚き火の火だけが、風に揺られてかすかに明滅している。


見張りの交代にはまだ時間があるにもかかわらず、ガイは持ち場からわずかに外れた位置に立ち、理由もなくその場に留まり続けていた。


本来ならば、こんな場所で立ち止まっている必要はない。


それでも足が動かないのは、胸の奥に引っかかる違和感が、どうしても消えずに残り続けているからだった。


「……落ち着かねえな」


小さく吐き出した声は夜に溶けていき、返ってくるものは何もないが、それでも思考だけは止まる気配を見せない。


原因は分かっている。


分かっているはずなのに、それを言葉にしようとすると輪郭がぼやけ、掴みかけては逃げていく。


(あいつだ)


エリオ・ベネガス。


何も変わらない顔で、何も感じていないように見えるあの男の姿が、何度も頭の中に浮かび上がる。


(変わってねえはずなのに……)


そう思った瞬間、胸の奥で小さく何かが軋んだ。


変わっていないはずなのに、確実に何かが引っかかっている。


その違和感の正体を探るように、ガイは昼の光景をゆっくりと引きずり出した。


水場。


夕方の光が差し込む中で、エリオの隣に立っていたカイルの姿が、妙に鮮明に思い出される。


(距離、近すぎだろ……)


肩が触れそうなほどの距離で並ぶ二人の姿は、任務中の兵士同士としてはあまりに無防備で、本来ならどちらかが自然に一歩引くはずの位置だった。


だがエリオは動かなかったし、避ける様子も、拒否する気配も見せなかった。


(……いや)


違う。


問題はそこじゃない。


ガイの思考が、ゆっくりと別の一点へと収束していく。


(あの時——)


水を汲む音。


わずかに揺れる光。


そして。


エリオの手が、仮面に触れた。


そのまま迷いなく留め具を外し——

顔を隠していたそれを外した。


(……外した)


はっきりとした記憶。


曖昧さはない。


エリオは、そのまま何事もないように水を口に含み、喉を通していた。


躊躇もなく。


確認するような動きもなく。


ただ、当たり前の動作として。


(なんでだ)


低く、押し殺した声が漏れる。


あの場に命令はなかった。


外す理由もなかった。


それでも、あいつは——


(勝手に外した)


その事実が、重く残る。


ガイは一度目を閉じ、別の記憶を引き寄せる。


血の匂い。


焦げた空気。


エリオが怪我を負った直後。


「外せ」


そう命じたのは、自分だった。


あの時、エリオは一瞬たりとも迷わず、ただ静かに頷いてその指示を受け入れた。


抵抗もなく、疑問もなく、ただ“従うべき判断”として処理しただけの反応。


(あの時は……)


ゆっくりと整理する。


(俺が言ったからだ)


(あいつは、それに従っただけだ)


そこには違和感はない。


任務として正しい行動であり、合理的で、無駄がない。


だが——


(今回は違う)


はっきりと、その差が浮かび上がる。


誰も何も言っていない。


判断を委ねる相手もいない。


本来なら、エリオ自身が判断を下すしかない場面だった。


そしてそれは、医療班の前で仮面を外すことを拒否した時と、同じ構造のはずだった。


(あの時は外さなかった)


任せる理由がないから、自分で判断し、結果として拒否した。


筋は通っている。


一貫している。


(じゃあ、なんで今回は外した)


答えは一つしかない。


(……判断してねえ)


ぽつりと落ちた言葉が、やけに重く響く。


理由もなく。


必要もなく。


ただ自然に。


(考えてなかったのか)


そこに辿り着いた瞬間、すべてが一気に繋がる。


距離。


視線。


カイルの存在。


(あいつの前だと……)


その先を考えた瞬間、呼吸が止まる。


「……は?」


自分の思考に対する違和感が、遅れて押し寄せる。


今、自分は何を比較した。


誰と誰を並べた。


沈黙の中で、その意味だけがはっきりと残る。


(俺の時は、言わなきゃ外さなかった)


(でもあいつの時は——)


言葉にしきれないまま、結論だけが浮かび上がる。


(……違うのかよ)


低く吐き出した瞬間、胸の奥がじわりと熱を帯びる。


理由は分からない。


だが、その感情は確かにそこにある。


(……気に入らねえ)


歯を食いしばる。


納得もできず、理解もできないまま、それでも無視することだけはできなかった。


(なんでだ)


何度目か分からない問いを繰り返した、その時だった。


「……離したくねえ」


ぽつりと零れた言葉に、ガイ自身が息を詰める。


あまりにも自然で、まるで最初からそこにあったかのような感覚。


(……は?)


自分の口から出た言葉の意味を理解しながらも、認めきれない。


否定しようとしても、胸の奥に残る感覚がそれを許さない。


(俺は……)


その先に踏み込めば戻れないことを、本能的に理解してしまい、思考がそこで止まる。


夜風が頬を撫でる。


冷たいはずなのに、身体の内側は妙に熱い。


ガイはゆっくりと顔を上げ、遠くにいるはずのエリオの方向へと視線を向けた。


距離はある。


それでも確かに、“そこにいる”と分かる。


「……明日、聞く」


短く呟いたその言葉には、もう迷いはなかった。


(このままにはさせねえ)


その決意だけが、はっきりと残っていた。


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