王からの通達
王城の扉が、重く閉じた。
外界の喧騒を断ち切るような静寂の中、エリオは一歩、足を進める。
謁見の間は広く、無駄がない。
磨き上げられた床、整然と並ぶ柱。
そして、その奥。
玉座に腰掛ける男が、ひとり。
「——エリオ・ベネガス騎士団長」
名を呼ばれる。
肩書きを含めて呼ばれることに、意味はある。
エリオは膝をつき、頭を垂れた。
「面を上げろ」
従い、視線を上げる。
そこにいたのは、若い男だった。
年は近いはずだが、纏う空気は明らかに異なる。
余裕と、退屈と、そして——選ぶ側の視線。
「騎士団長自ら来るとはな」
興味深げに、男は笑う。
「仮面の騎士、か。噂以上だ」
「……任務に支障はありません」
「だろうな」
即答だった。
だが視線は、外されない。
仮面の奥を覗き込むように、じっと見据えられる。
「外す気は?」
「ありません」
間を置かずに返す。
男は、わずかに口角を上げた。
「いい。そういう頑固さは嫌いじゃない」
軽く体を起こす。
玉座から降り、ゆっくりと距離を詰めてくる。
その足取りには、迷いがない。
「本題だ。お前には隣国、ナルディアへ行ってもらう」
「承知しています」
「国境付近で不穏な動きがある。規模は小さいが、放置すれば厄介になる」
「討伐および調査でしょうか」
「その通りだ」
エリオは一度、頷く。
「問題ありません」
「……本当にそうか?」
声色が、わずかに変わる。
試すような響き。
「他国だぞ。お前の常識は通じない」
「問題ありません」
迷いのない返答。
男はそれを、しばし眺め——
「一つ、忠告してやる」
エリオの目前で足を止めた。
視線が、仮面に落ちる。
「向こうは、我が国の民達と違うぞ」
「……」
「遠慮がない。踏み込みが深い、そんな人種の者達と聞く」
わずかな間。
「お前のように壁を作る人間には、面倒だろうな」
「問題ありません」
三度目の返答。
即答。
だがその奥にあるものを、男は見逃さない。
「……そうか」
小さく笑った。
「なら見せてもらおう。お前の“問題ない”が、どこまで通じるか」
一歩、離れる。
「行け、エリオ・ベネガス」
「——了解しました」
それだけを返し、エリオは背を向けた。
足取りは、変わらない。
だが。
「我が国と違う人種、か」
誰にも聞こえない声で、呟く。
(……面倒だな)
それだけのはずだった。
それなのに。
胸の奥に、わずかな違和感が残る。
——何が、引っかかっている。
「……問題ない」
思考ごと、切り捨てた。




