仮面の理由 【エリオ視点】
静かだ。
視線は、いつも同じだ。
興味。
嫌悪。
好奇。
区別はつかない。
つける必要もない。
どれも同じだからだ。
——顔を見られている。
それだけで十分だった。
幼い頃。
まだ仮面がなかった頃。
「綺麗だね」
そう言われた記憶がある。
意味は分からなかった。
ただ、周囲の態度が変わったことだけは覚えている。
優しくなる者。
近づいてくる者。
遠巻きに見る者。
理由は分からない。
だが——
「その顔は、厄災を呼ぶ」
低い声。
一族の誰かがそう言った。
「持つべきではない」
その言葉の意味も、当時は理解していなかった。
理解したのは、その後だ。
熱。
焼ける感覚。
皮膚が裂ける音。
声は出なかった。
出す必要もないと思った。
それが“正しい処置”だと判断されたからだ。
痛みはあった。
だが、それ以上に——
静かだった。
すべてが終わった後。
鏡を見せられた。
そこにあったのは——
歪んだ顔。
赤く、引き攣れた皮膚。
以前の面影は、ほとんど残っていなかった。
「これでいい」
誰かが言った。
その時、初めて理解する。
——ああ、あれは“良くなかった”のか。
それからだ。
外に出ると、視線がまた変わった。
怯え。
嫌悪。
興味。
今度は、明確だった。
だが。
(同じだ)
エリオはそう思った。
理由が違うだけで、見られていることに変わりはない。
ならば——
どちらにも価値はない。
顔は、評価を歪める。
以前も。
今も。
だから——
(不要だ)
仮面をつけたのは、そのためだ。
見せなければ、判断されない。
判断されなければ、誤差は生まれない。
それだけのこと。
痛みも。
過去も。
特別なものではない。
ただの結果だ。
——そう、思っている。
だが。
「エリオ様」
声がする。
視線を向ける。
そこにいるのは、カイル。
まっすぐに、こちらを見ている。
逸らさない。
隠さない。
評価でもない。
(……珍しいな)
そう思っただけだった。
「どうしました?」
問われる。
エリオはわずかに首を振る。
「問題ない」
それだけを返す。
だが。
ほんの一瞬だけ——
思考が止まる。
(……問題、ないか?)
自分で出した答えに、わずかな引っかかり。
だがそれも、すぐに消える。
必要がないからだ。
それ以上、考えることはなかった。




