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わたくしは奇跡の娘と言われた。
わたくしが生まれた時、お母様が兄様姉様たちに言ったことをよく覚えている。
「みんな見て、新しい魔法使いの妹よ」
「わーい。ボクの新しい最初の妹、こんにちわ!」
「オレがお姉ちゃんかー……なんか、実感ないな……」
「ワカバお姉ちゃんですよぉ。はじめまして、妹ちゃん」
「僕がお兄ちゃん……うん。もっとしっかりしなきゃ」
「みんな、この子はね特別なの」
「とくべつ?」
「何が特別なの?」
「忌子と言って、神様に近い存在……尊い存在なの」
「神様に近い!? すっごい妹だ」
「そうなの。だからね、みんなはお兄ちゃんお姉ちゃんだけど、この子が言うことやることに逆らっては駄目。この子が絶対。わかった?」
『うん、わかった』
「ねぇねぇママ。この子の名前はなーに?」
「そうね…………白い髪、綺麗な銀の瞳から取って……シルヴァ」
「シルヴァ……僕は誓うよ。これから先何があっても、僕たち兄弟がキミを絶対に護るよ」
「オレも誓う」
「ワカバも」
「もちろんボクも」
時が経ち9年後、わたくしは賢者マギという人物に出会う。
「みんな久しぶり……っとキミははじめましてだね。俺はマギ。一応、みんなの魔法の先生と自負してるんだけど……」
「マギは友達って感じだよねー」
「なんか頼りないよね」
「──とまぁこんな感じでゆるーく先生をやってるよ。たまにここに来る程度だしね」
「はじめまして、シルヴァです」
「よろしくね、シルヴァちゃん」
「マギー、今日はなにするの?」
「今日は攻撃魔法の練習だね。キミたちには必要ないものだけど、万が一戦うことになったときできなきゃマズイからね」
「えー、そんなことしたくないよぉ……」
「オレは戦うの好きだぜ!」
「ワカバ、ただの練習だからやろーよ」
「ボクが最初にやるよ。マギに魔法をやればいいの?」
「やめてよ!? そんなことしたら痛いじゃん! このデコイにやってよ」
賢者マギはわたくしたちと同じくらいの背格好の木人形を出した。
「よし! それじゃあソラくん、キミの攻撃魔法をこちらにどうぞ」
「いっくぞー」
ソラ兄様がデコイに向かって魔法を放った。
「【上昇する水流】!!」
デコイの足元から逆さの豪雨が降り、デコイを傷つけた。
「おっ! 新しい魔法だな、ソラ!」
「えっへへ〜、どうよ」
「でもさぁ? 上がった水はどうなるの?」
『あ』
「【優しく護りたまえ】」
クルミ兄様が唱えた汎用魔法で、落ちてくる水を防いだ。
「うんうん、クルミくんは前教えた汎用魔法をちゃんと覚えてるみたいだね。関心関心」
「みんな濡れてない?」
「さっすがクルミちゃん! ワカバから花丸あげるね」
「おいこらソラ! あとのことも考えとけよ!!」
「ごめんごめん。うっかりしてた」
「でもお見事でした。ソラ兄様」
「ありがとう、シルヴァ」
「次は誰がやるんだい?」
「オレがやるよ。くらえ!!【火球】」
ひとつの炎の玉が、デコイにあたって炎上する。
「いい魔法だったね。それによく燃える」
「サンは手加減しないからなー。それにしてもよく燃えてるね」
「流石です、サン姉様。でも燃えたままでよろしいのですか?」
「火を消せばいいの? それならワカバに任せて! 竜巻!!」
暴風の束がデコイに向かって走り、炎もろとも宙に上がった。その衝撃で炎は消えて、焼け焦げたデコイが落ちて地面に転がった。
「火消えたよ、マギちゃん。褒めて褒めて〜」
「嫌がってた割にはちゃんとできるじゃないか! 凄いぞ、ワカバちゃん」
「ふっふーん。よきにはからえ。シルヴァちゃんも『すごい』って言って?」
「す、すごいです。ワカバ姉様」
「ふっふーん。よきにはからえ」
「それ言いたいだけだろ」
「次は僕だね。【投石】!」
拳くらいの岩が出現し、ゴッっと音を立ててデコイにあたった。
『うわぁ』
「もの凄い音で痛そうだね。でもよくできましたクルミくん」
クルミ兄様はピースした。わたくしは拍手した。
「最後、シルヴァちゃん。やろうか」
「わたくしもですか?」
わたくしは困惑した。
「みんなやったからシルヴァもやろうよ!」
「ただの遊びだよ、遊び」
「緊張しなくていいよ。ゆっくりでいい」
「やっちゃえ! シルヴァちゃん」
魔法の唱え方には3種類ある。1.魔法の名称呼称。2.詠唱。3.魔導書を用いた簡略化された魔法名称呼称。
今回の場合、1をすべきなのだろう。ゆっくりと深呼吸をして目標を見据えた。
「【空間に風穴を開けよ】」
わたくしはデコイの頭部に槍の一撃をくらわせた。
『……』
「凄い……目視で見えない魔法だった……」
「どうだったでしょうか?」
兄様姉様の目が急激に輝く。
「すごいすごい!!! まだ9才なのにきょーりょくな魔法! 惚れ惚れするよぉ〜」
「さっすがはママが認めた忌子だな! オレらとは段違いだぜ!!」
「これなら、もし襲われたとしても大丈夫だね、マギ──マギ?」
賢者マギの開いた口が塞がらない様子だった。
「はい! 魔法の練習おーわり。シルヴァ遊びに行こ」
「え?でも……」
「無視して大丈夫だよ。僕が残っておくから、3人で遊んでおいで」
「頼んだよ、クルミ。よーし今日は釣り大会だ!」
「あっ、ズルいぞソラ。狩りごっこをみんなでやろうって朝言ったじゃないか」
わたくしは賢者マギを置いて、遊びに出かけてしまった。
放心状態から回復したマギはクルミと会話していた。
「すごいよねシルヴァ。僕たちより強いのかもしれない」
「でも、本人は戦うことに抵抗感があるみたいだね」
「戦わせませんよ。僕たちが護るから……」
◇
3年後、わたくしは寵愛を受けて不老不死になった。
「儀式完了っと、改めてお誕生日おめでとう、シルヴァちゃん」
「ありがとうございます、マギ様」
儀式を終えたわたくしはなんだか身体が疲れていた。
「シルヴァ? 大丈夫かしら?」
「へ、平気です。お母様……」
しかし、体がぐらついて倒れそうになる。
「おっと」
マギ様が体を支えてくれた。その瞬──
「ッ!?」
わたくしの目の前がとある情報を与えてきた。
「アッシュおめでとう。これから先生としてやっていけるよ!」
「そんな……俺はまだみんなと比べて劣っている魔法使いです」
「そんなことないよ! キミの実力はシルヴァを超えているよ! キミは天才なのだから」
ここで情報が突如終わる。
「大丈夫、シルヴァ!?」
お母様がわたくしを抱き抱えていた。
「立ちくらみにしてはおかしいな。瞳孔が開いたままだったし……」
「シルヴァ、具合は?」
「もう大丈夫です。ありがとうございます、お母様」
「うーん、不老の副作用かな? とりあえずベッドに運ぼうか?」
「そうね、そうしてもらえるかしら」
「ちょっと待ってください! その前に聞いてほしいことがあります」
わたくしは先程見た顛末を2人に教えた。
「リリス、これって──」
「未来視ね。過去にそんなことが使えた人がいたっけ……」
しばらくお母様は何か考え事をして、何かひらめいた。
「決めたわマギ。この場所に人間を呼ぶわ」
「えっ!? 本当かい!?」
「あなたが言う、救いってやつに手を出してみようかしら」
「本当かい? それなら宣伝は俺に任せておけ」
「何をするのですか?」
「シルヴァ、あなたにお願いがあります」
「お願い……ですか?」
「あなたのその力、外の世界の人間に未来視を使って助けてあげるのです」
「わかりました」
お母様のお願いはめったにない。わたくしはそれを受け入れた。




