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ギアス大陸北西端の商業都市キドラント。そこの領主デブリは焦っていた。
漁業の不作続きと配送業の度重なる事故で収入は下落。今まで苦労というものとは無縁だったため、船員を叱ることしかできない学のない貴族だった。
更に、北東の商業都市アルジャーノンがアルトリア大陸との領海を巡っての戦争真っ只中であり、国からの援助は望み薄。武装船も全部で50あるうちの40も持っていかれてしまう。
自分を守る兵も田舎者のフライデー将軍という使えそうもない人間を残されてご立腹──が、兵からすればフライデー将軍は頼もしい人であり、働きもせずただ文句を言う領主デブリのことを嫌っていた。
そしてデブリにピンチが訪れる。なんと、国から業績を上げなければ左遷されてしまうという通知が入った。なんとか業績を上げようにも知恵がないので解決策が浮かばない。無理な命令で事故は起きる。民衆からは軽蔑される。もはやここまでかと思われた先のクロの作った魔導具だった。
その珍しさから行商人を抱えこみ、手に入れた魔導具を試しに魔術協会へ持っていくとと価値が高い物だと言われた。これなら失脚せずに済むとその島と貿易を開始しようとするが、問題があった。
この魔導具は物々交換で手に入れた物であり、金銭のやり取りはしてなかったこと。これがバレると失脚どころではなく牢に入れられてしまう──なら、あの島を我々の物にすればいい。そう考えてしまったのだった。
フライデー将軍を呼び島との交渉役として派遣。そして行商人を複数雇い、それぞれ別な国から来た設定でクロの魔導具をガラクタと交換して入手。そして魔術商会を創設し販売。利益を国に納めた。
しかし、人間は欲を構成された悲しき生き物。魔女の島にある産物全てデブリは独占しようとする。あの手この手でいちゃもんをつけて傘下に入らせようとするが、リリスには見抜かれており失敗続き。とうとう侵略しようと武装船5隻を出してしまうのだった。
無論、フライデー将軍は止めた。が──
「お待ちください、デブリ殿! なにも武装船でなくても……」
「黙れ無能!! 貴様が頼りないから私自ら出るのだ! 貴様は兵の指揮でも執ってろ」
「デブリ殿!!」
「うるさい!!! ことの発端を貴様のせいにできるのだぞ? 死刑にはされたくないだろう? 黙って私に従っておればいいのだ」
「くっ……」(すまない、リリス殿)
餌に喰らいついた家畜はそう易々と餌を放そうとはしない。
結局、デブリと同行して魔女の島へ向かうこととなった。
◇
海上
天気 晴天
健康状態 皆正常
モンスターの襲撃 今のところ無し
「はぁ……」
フライデーは甲板で日誌をつけていた。そこへ一般兵が声をかける。
「お疲れでしょうか、フライデー将軍?」
ため息をついたのは魔女リリスになんと申しあげるか悩んでいた。
「いや、いらぬ心配事をしているだけだ。デブリ殿は何をなさっている?」
「操舵室で酒を煽っています『飲まなきゃやっていられん』と言っておりました」
「やれやれ、初めての船旅のくせに……本当はこんなことに付き合わされているキミたちに飲ませるべきなんだろうが──わたしには決定権などない。許せ」
「お心遣い、感謝します」
「しかし、予定より随分と遅い航海だな?」
「それが……」
兵が耳打ちをする。
「ここだけの話。潮の流れが変わって、いつものように進めないのです」
「なんだと? なぜそれを早く言わない?」
「すみません。我々も初めての経験でして航海士も当惑しております」
「フライデー将軍!」
別な兵から声をかけられる。
「どうした!」
「船首へ来てください! 魔女の島が……」
「? 島がどうした!」
船首に向かうと不可思議な光景が目に入った。
「な、なんだこれは……!?」
島の周りを台風が複数徘徊していた。だが島内部の天候は悪くない。おそらく魔法であると確信した。
(シルヴァ嬢が未来視でリリス殿に告げた結果なのか?)
「いったいなんの騒ぎだ? ひっく……」
「デブリ殿危険です! 操舵室にお戻りください!」
「う〜るさい。デカい声出すな。頭に響くぅ」
「フライデー将軍! 島から何か来ます!」
見張り台から報告が入る。
「なにぃ? 誰か双眼鏡を貸せ! 私が観る」
誰もデブリに反抗できず、双眼鏡を渡す。
「どこだぁ────んぐぁ!?」
デブリは双眼鏡を落とし、割った。
「どうされました!? デブリ殿!」
「目がぁ……目がぁ……!!!」
デブリの眼の回りが黒く焦げていた。慌てふためく船首だが、フライデーは落ち着いていた。こんな芸当ができるのは──
「まさか、魔女の子供たちか!?」
「フライデー貴様、私を守らずに何をしているぅ……早く私を攻撃したやつを殺せ!!」
「落ち着いてください! ただの子供のイタズラです! 島には回復魔法を使える方もいます!」
「なら今すぐ治せ!! 私を怒らせるな!!!」
デブリを無視して島からやってきた魔法使いと相対する。空を自由に翔べる魔法使いと。
「フライデー将軍であられますか?」
「いかにも。そちらは?」
「魔女リリスの子、ワカバ。ここより先は近づかないで頂きたい」
「何を言うか!! 私を攻撃しておいて近づくなと!? 謝罪しろ!!! 自害せよ!!!」
「いつも勝手に来るくせに、理不尽があれば我々のせい? 身勝手ね」
「うっ……!」
子供に論破されてしまった。
「そ、それでも、リリスには私と共にキドラントへ向かわねばならぬ……そ、そうだ! リリスと添い遂げる約束をしたのだ! 貴様ら子供には知らぬことだろう? 言うことを聞け!! 貴様の親との約束を破る気か?」
ワカバは右腕を上げて下ろした。島にいるソラへの合図。
「【はらぺこの大波】」
「まずい!! 緊急旋回急げ!!!」
フライデーの命令は遅すぎた。後方左の1船が突然の船を覆う波に飲まれ、消失した。
「ひぃぃぃ!!?」
ほとんどの兵が魔法使いの力に圧倒され、逃げ腰になってしまう。
「言うこと聞かないと次はワカバの魔法を使うよ? いいの?」
「な……何をした? 何が起きた!! フライデー、説明しろ!!」
「デブリ殿、少しだま──」
「【鎌鼬】」
風の刃がデブリを切り刻み、肉塊へと変えた。
「デブリ……殿…………」
「それで? その領主ってやつはどこ? 話が通じないなら同じ魔法を使うよ?」
誰もが領主だったものに指を刺した。
「えっ? それが領主……? あっはは。おっかしぃ〜」
人を殺したのにケラケラと笑う子供にフライデーはゾッとした。
「ねぇ、フライデーちゃん? どうするの?」
「……見逃していただけるのだろうか?」
「うーん、決めるのはワカバじゃないから」
「フライデー将軍!! 右舷のニナ号から伝達! 魔法使いです!」
「逃げてもいいよ? 逃げれるのはひとりだけかもね」
「くっ……! 戦闘配備急げ!!」
しかし、圧倒的な魔法に抵抗する手段はない。
「【投石】」
「【火球】」
「【壊れろ】」
「【破裂せよ】」
次々と船と兵が壊されてしまい。フライデーの乗った船とフライデーのみ生き残ってしまった。
「伝言しました。もうすぐ、シルヴァさんが来ます」
「どうしてこんなことに……」
「さあ? 領主殿に聞けば?」
「アッシュ、死んだ人間は何も言わねーって。馬鹿のオレでもわかるぞ」
「そういう意味じゃないと思うぞ、サン」
そして次元の狭間からシルヴァが現れた。
「シルヴァ嬢……」
「フライデー将軍、命じます。生き恥を晒しなさい。あなたができることは罪を償うことでも復讐でもない。ただ恥をかき続けなさい」
「シルヴァ嬢! り──」
フライデーは悟る。リリスに何かあったのだと。
「──わかりました。生かしていただき、感謝の極み」
「けっ! 嘘くせー」
この後、フライデーは無期懲役で牢へ入れられる。そして不思議なことに、老いの進みが遅いことに気づかれ、不老の研究材料として生き続けることとなる。




