シオンの記録
同じ夜、宇宙空間でシオンは記録を取っていた。
水晶空間——エリオがそう呼び始めた——の表面を、艦隊の計器で測定し続けていた。触れると弾かれる。通信が届かない。でも中が見える。
人が動いているのが見える。
灯りが点いている。市場の灯りがある。家の灯りがある。書庫らしき場所に、一つだけオレンジ色の灯りがある。
シオンはその灯りを見た。
「エリオ」
「はい」
「あの灯り、昨日もあったか」
エリオが記録を確認した。
「あります。昨夜も同じ場所に」
「書庫か」
「おそらく」
シオンはハーブの茶を一口飲んだ。
「リラですね、たぶん」
「たぶん」
シオンは水晶空間を見た。中の灯りを見た。
届かない。声も、通信も、何も届かない。
でもそこにいることは分かる。灯りがある。動いている。
「エリオ、記録を続けてくれ。表面の変化を全部取っておく。どんな小さな変化でも」
「分かりました」
シオンは椅子に深く座り直した。
アルヴィが今日、一つだけ言っていた。「内側から変化が起きた時に、すぐ対応できるように」と。
内側から変化が起きる。その変化がいつ来るのか、シオンには分からない。でも来る、とアルヴィは言った。アルヴィが言うなら、そうなのだろう。
シオンは水晶空間の表面を見続けた。
書庫のオレンジ色の灯りが、揺れていた。
風でも揺れているように、静かに、規則正しく。
その時、エリオが別の計器を確認した。
「提督、もう一つ報告があります」
「なんだ」
「水晶空間の外縁、惑星方向から——形状不定の反応が複数、こちらに向かっています。速度はまだ遅い。ただ」
「ただ?」
「増えています。少しずつ」
シオンは灯りから目を離した。別の計器を見た。
「記録を続けろ。目を離すな」
「はい」




