表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/78

夜の書庫

夜、リラはまた書庫に来ていた。

灯りを一つだけつけた。オレンジ色の光が、本棚を照らした。

また触れてみた。

やはり何も来なかった。

リラは棚の前に座り込んだ。背中を棚につけた。膝を抱えた。

怖い、と思った。

感じられなくなった、ということが怖かった。でもそれだけではなかった。

もし感じられないまま、ここを出ることになったら——

リラはこの閉じ込められた空間で、何かをしなければならないはずだ。前の戦いでも、リラにしかできないことがあった。今回もそうなるはずだ。でも今のリラには、何もない。

本がある。でも感じられない。

知識はある。でも言葉が来ない。

自分は今、地図ではない、とリラは思った。ただの、本を持っているだけの女の子だ。

扉が開いた。

カイだった。

リラが床に座っているのを見た。一秒だけ見た。

それから書庫に入ってきた。リラの向かいの壁に背をつけて、座った。

床に二人が向かい合って座っていた。

カイは何も言わなかった。リラも何も言わなかった。

灯りがオレンジ色に揺れていた。

しばらくして、カイがポケットに手を入れた。紙を出した。書きかけの紙だった。見せるつもりで出したのではなかった、という出し方だった。でも出した。

リラは見た。

文字があった。カイの字だった。几帳面ではなかった。でも丁寧だった。何度も書き直した跡があった。

一行だけ読めた。

『——お前が感じるなら』

その先が、書きかけだった。

カイは紙をポケットに戻した。

「見せるつもりじゃなかった」

「分かってる」

「まだ書けていない」

「分かってる」

リラは膝の上で手を重ねた。

「カイ」

「なんだ」

「書いているんですね」

カイは少し間を置いた。

「……うるさい」

リラは少し笑った。

その笑いは小さかった。でも本物だった。

カイは壁に頭をつけて、天井を見た。

「感じられなくなったのは、お前が壊れたからじゃない」

「分かってる。でも」

「向こうが閉じているんだろ。アルヴィが言っていた言い方で言えば」

「そう思いたい」

「思いたいなら、そう思え」

リラはカイを見た。カイは天井を見たままだった。

「根拠もないのに?」

「お前が感じるなら、そうなんだろ。それと同じだ。俺がそう思うなら、そうなんだろ」

リラはその言葉を、ゆっくりと受け取った。

論理ではなかった。でも間違っていない気がした。

「ありがとう」

「礼はいらない」

二人はしばらく、書庫の床に座ったままだった。灯りが揺れていた。本棚が暗い中に並んでいた。

感じられない本たちが、そこにあった。

でもリラには、その背表紙の形が見えていた。どれがどの本か、分かっていた。読んできた時間が、そこにあることは分かっていた。

消えていない。

カイが言った通り、消えていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ