縫い目
翌朝、出発した。
飛行艇にアルヴィとブラートが加わった。狭くなった。ブラートが乗り込む時、飛行艇が少し傾いた。エリオが計器を確認した。問題なかった。
「すまない」とブラートが言った。
「大丈夫です」とエリオが言った。顔が少し引きつっていた。
カイはそれを見て、何も言わなかった。
東へ向かった。森を越えた。草原を越えた。地形が変わり始めた。草が少なくなって、岩が増えた。土の色が変わった。茶色から、灰色に近い色になっていった。
「この辺から、空気が違います」とアルヴィが言った。
リラは窓を少し開けた。
冷たい空気が入ってきた。温度だけではなかった。密度が違う気がした。この世界の空気より、少し重い。
「感じますか」とアルヴィがリラに聞いた。
「感じます。重い」
「層が近づいている証拠です」
ティアが耳を押さえた。
「耳の奥が少し痛い」
カイがティアを見た。
「無理するな」
「大丈夫。前よりずっと軽い」
飛行艇が進むにつれ、地形がさらに変わった。岩場になった。古い岩だった。苔の生え方が、長い時間を示していた。人の手が入った痕跡もあった。いつのものか分からないくらい古い痕跡だった。
「あそこです」
アルヴィが前方を指した。
岩場の先に、開けた場所があった。円形に近い形だった。岩が周囲を囲んでいた。まるで誰かが意図して作ったような配置だったが、自然に形成されたものだと分かった。長い時間をかけて、こういう形になった場所だった。
その中心に、石の台があった。
台の上に、本があった。
飛行艇を岩場の手前に降ろした。
全員が降りた。風がなかった。音がなかった。鳥の声もなかった。虫の声もなかった。
静かすぎた。
カイが周囲を確認した。手がナイフの柄に近い位置にあった。戦う気ではなかった。ただ、手に何かを持っていたかった。
一行が中心の石の台に近づいた。
本だった。最初に古書店で見つけた本と、遺跡で見つけた本と、同じ装丁だった。深い緑色。読めない文字。
「同じ本ね」とリラが言った。
「同じ本です」とアルヴィが言った。「でも別の一冊です」
「どういうこと?」
「同じ存在から来た、別の断片だと思います。最初の本があなたを引き寄せた。二冊目があなたに方向を示した。そしてこれが——」
アルヴィは台の上の本を見た。
「終点です」
リラはカバンから最初の本を取り出した。手に持った。台の上の本と並べて見た。見た目は同じだった。でも温度が違う気がした。最初の本は温かかった。台の上の本は——もっと静かだった。待っている温度だった。
「触れてみます」
カイがリラの隣に来た。一歩だけ前に出た。
「俺も一緒に——」
「カイ」
アルヴィが静かに言った。
「今回は、リラが先に触れる方がいい」
カイはアルヴィを見た。アルヴィは真っ直ぐにカイを見返した。
一秒の沈黙があった。
カイは一歩引いた。
リラはカイを見た。カイは前を向いていた。顎の線が、少し硬かった。
「大丈夫」とリラは言った。
カイは答えなかった。でも頷いた。
リラは台に近づいた。
本に手を伸ばした。
触れた瞬間——
最初の本と、台の上の本が、同時に反応した。両方から光が出た。白い光だった。眩しくはなかった。ただ、明るかった。
リラの手から、光が這い上がってきた。肘まで来た。肩まで来た。
吸い込まれる感覚があった。足が地面から離れそうになった。
その時——
「リラ!」
カイの手が、リラの手首を掴んだ。
強く。迷いなく。
本が反応した。
白い光が、ゴオオオオッという音を立てて膨れ上がった。カイの手を、ノイズとして拒絶した。
でも今回は——前と違った。
カイが手を離さなかった。
「離すな」とカイが言った。リラに向かって言ったのか、自分に向かって言ったのか、分からなかった。
白い空間が広がった。
岩場を飲み込んだ。飛行艇を飲み込んだ。アルヴィたちを飲み込んだ。
東の空を、全部飲み込んだ。
光が、世界を白く染めた。
リラの意識が、遠くなった。
カイの手の温かさだけが、最後まで残っていた。




