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東へ

飛行艇は思ったより静かだった。

エンジン音はある。でも連邦の艦艇より小さく、この世界の馬車より規則正しい。リラはその音に慣れるまで少し時間がかかった。慣れてしまうと、今度は眠くなった。

「眠っていいぞ」とカイが言った。

「眠くない」

「目が閉じかけてる」

リラは窓の外を見た。草原が続いていた。地平線まで草原だった。この世界に来てから何度か草原を見たが、これだけ続くのは初めてだった。果てがない感じがした。怖いというより、静かだった。

ティアはカイの肩で本当に眠っていた。小さな寝息を立てていた。

エリオは操縦に集中していた。時々、計器を確認していた。シオン艦隊との通信を定期的に入れていた。内容は短かった。「現在地、異常なし」「了解」それだけだった。

「エリオさん」とリラが言った。

「はい」

「シオン提督は今、宇宙にいるんですね」

「そうです。今頃、あのエネルギー反応の方角をもう少し詳しく調べているはずです」

「提督は、怖くないんでしょうか。宇宙に出ることが」

エリオは少し考えてから答えた。

「怖いかどうかは、あまり顔に出ない人なので」

「エリオさんには分かるんですか」

「少しだけ」

エリオは前を向いたまま続けた。

「今朝、出発前に茶を淹れたんですが、提督が自分で砂糖を入れていました。いつもは入れない人なのに」

リラはその言葉を聞いて、少し笑った。

カイも少し口元が動いた。

草原が続いていた。風が来て、草が一斉に揺れた。まるで海のようだった。リラはその揺れを見ながら、カバンの中の本のことを考えた。

不思議な本の温かさが、今もそこにある気がした。


二日目の昼、森が見えてきた。

地平線の先に、緑が重なっている。近づくにつれ、木が高くなっていくのが分かった。地図に載っていない森だった。エリオが計器を確認した。

「この辺から、魔力の読み取りが少し不安定になります」

「飛べるか」とカイが聞いた。

「飛べます。ただ、高度を下げた方が安定します」

飛行艇が降下した。木の上すれすれを飛ぶ形になった。葉の匂いがした。この世界の森の匂いだった。湿っていて、古くて、何百年分かの時間が染み込んでいるような匂い。

リラはその匂いを嗅いで、何かを感じた。

本からではなかった。空気から来た。

(ここは、特別な場所だ)

言葉にするとそれだけだった。でも確かに来た。この森は普通の森ではない。何かが眠っている。あるいは何かが通り過ぎた跡がある。

「リラ」

カイが言った。

「何か感じるか」

「感じる。でもまだ形にならない」

カイは頷いた。

「無理に形にしなくていい」

飛行艇が森の上を進んでいった。木の梢が窓の下を流れていった。ティアが目を覚ました。窓の外を見た。

「きれいな森だね」

「そうね」

「でも中に入りたくない感じがする」

「なぜ?」

ティアは少し考えた。

「入ったら出てこられない感じがする。悪い意味じゃなくて。ずっといたくなっちゃう感じ」

リラはその言葉を聞いて、伝承の本の一節を思い出した。

『戻らなかったのではなく、戻る必要がなくなったのだ』

「ティア、鋭いわね」

「え、そう?」

ティアは照れたように羽を震わせた。カイの肩の上で少し大きくなった気がした。

森が終わった。

開けた場所に出た。宿場町が見えた。

「あそこです」とエリオが言った。「アルヴィさんと合流する場所」

夕方の光が、宿場町を橙色に照らしていた。


宿場町は小さかった。

街道沿いにある、旅人のための町だった。宿が三軒、食堂が二軒、あとは小さな雑貨屋と馬屋があるだけだった。人の数も多くない。旅人と、地元の人間が半々くらいだった。

飛行艇を町の外れに降ろした。

目立った。当然だった。町の人々が出てきて見ていた。子供が走り寄ってきた。エリオが穏やかに対応した。カイは飛行艇の状態を確認していた。

「カイ」

声がした。

振り返ると、宿の前にアルヴィが立っていた。いつも通りの格好だった。旅の疲れが少しあるが、表情は穏やかだった。

ブラートが隣にいた。カイを見て笑った。理由のない笑い方だった。

「遅かったな」とブラートが言った。

「三日で来た」とカイが言った。

「俺たちは五日かかった」

「足の問題だろ」

ブラートはまた笑った。

アルヴィはリラを見た。

「元気そうですね」

「おかげさまで」

「本は持ってきましたか」

「はい」

リラはカバンを示した。アルヴィは頷いた。

「夕食を食べながら話しましょう。食堂が一軒、まともなところがあります」

「まともというのは」とカイが言った。

「スープが熱い」

カイは頷いた。それで十分だった。


食堂は狭かった。テーブルが六つ。カイたちで半分が埋まった。

スープは確かに熱かった。根菜のスープだった。リラはそれを一口飲んで、翠縁農場のことを思った。エルマのスープとは違う。でも同じ種類の温かさがあった。

アルヴィが話し始めた。

「森で分かったことを話します」

全員が聞いた。エリオが手帳を出した。

「歪みの残滓が、一点に向かって流れていました。東の境界の方角です」

リラが顔を上げた。

「本が示した方向と同じです」

「そうですね。私も驚きました」アルヴィはスープを一口飲んだ。「流れの先に、何かある。でも森の中からでは、それ以上は分からなかった。入口だけが見えた」

「入口」とカイが言った。

「別の層への入口です。この世界の層と、別の何かが接触している場所。それが東の境界にある」

「世界の縫い目だ」とリラが言った。

アルヴィはリラを見た。

「伝承の本に書いてありました。かつて世界がまだ一つの形をしていた頃の、最後の継ぎ目だと」

「よく見つけましたね」

「本が教えてくれました」

アルヴィは少し間を置いた。それから、窓の外を見た。夜になっていた。星が出ていた。

「一つ、確認させてください」

全員がアルヴィを見た。

「そこへ行くことを、全員が決めていますか」

誰も答えなかった。でも誰も否定しなかった。

カイが言った。「行く」

ティアが言った。「行く」

エリオが言った。「提督の命令で来ています。行きます」

リラは少し間を置いた。

「行かないといけない気がします。最初からずっと」

アルヴィは全員を見た。それから頷いた。

「分かりました」

ブラートはスープを飲み終えていた。椀を置いて、静かに言った。

「明日の朝、出発でいいか」

「いい」とカイが言った。

食堂に、スープの匂いが満ちていた。外で風が来た。窓が少し揺れた。

リラはカバンに手を当てた。

不思議な本の温かさが、また来た。

今度は——落ち着いているような気がした。急いていた温度が、少し静かになっていた。

まるで、たどり着いた、と言っているように。

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