目覚めの先
最初に聞こえたのは、川の音だった。
リラは目を開けた。
天井があった。石造りの天井だった。見覚えがあった。王都の、自分の部屋の天井だった。
起き上がった。
部屋の中を見た。いつもの部屋だった。机がある。本棚がある。窓がある。
窓から外を見た。
王都だった。街が見えた。市場が見えた。川が見えた。川の水が、普通に流れていた。
でも空が違った。
橙でも青でもない。白みがかった色をしている。雲の形が違う。光の角度が違う。
「起きたか」
声がした。
カイだった。部屋の入口に寄りかかって立っていた。腕を組んでいた。
「カイ、ここは」
「王都だ。お前の部屋」
「でも空が」
「ああ」
カイは窓の外を一度見た。
「外に出ようとすると、壁がある。見えないが、触れると固い。川の水は来ている。鳥は飛んでいる。でも外には出られない」
リラは立ち上がった。窓に近づいた。手を伸ばして、窓の外に出した。
何もなかった。
もう少し伸ばした。
何かに触れた。見えない。でも確かにある。固い。冷たい。
「閉じ込められた」
「そうだ」
リラは壁から手を引いた。カイを見た。
「アルヴィたちは?」
「外にいる。あいつらは中に入らなかった。俺たちだけが飲み込まれた」
「なぜ私たちだけ」
カイは少し間を置いた。
「本を持っていたからじゃないか。お前と、お前の手を掴んだ俺が」
リラは自分の手を見た。まだカイに掴まれていた感触が残っている気がした。
「ごめんなさい、カイ」
「謝るな」
カイは腕を組んだまま言った。
「お前のせいじゃない。それに——」
一拍置いた。
「閉じ込められた場所が王都なら、最悪じゃない」
リラはその言葉を聞いて、少し笑った。
カイらしい、と思った。
「ナイラ様とライラさんは?」
「いる。さっき会った。ナイラはすでに状況を把握して動いていた。ライラは兵士をまとめていた」
「さすがですね」
「そうだな」
カイは窓の外を見た。王都が、いつもより少し静かだった。混乱はある。でも崩壊はしていない。
「川の水が来ている。鳥が行き来できる。食料の備蓄もある。しばらくは生活が回る」
「でも」
「ああ。出口を見つけなければならない」
二人は窓の外を見た。
白みがかった空の下で、王都が動いていた。市場が開き始めていた。子供が走っていた。誰かが誰かに声をかけていた。
人々は、もうすでに動いていた。




