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決戦

祭壇の間に入った瞬間、空気が変わった。

重かった。何百年分かの執念が、この空間に溜まっていた。壁の文様が光っていた。装置の出力が最大に近かった。

僧侶は祭壇の前に立っていた。

法衣のままだった。表情がなかった。影の形がおかしかった。

アルヴィが前に出た。カイが右に広がった。リラが左に広がった。ブラートは後ろにいた。

「来るのが遅かった」

僧侶が言った。声に何百年分かの重さがあった。

アルヴィは答えなかった。

リラは広間を見た。天井が高かった。石柱が八本あった。柱の並びに規則性があった。音が反響する構造だった。図書館で読んだ音響理論の図と、ほぼ一致していた。

リラは本を開いた。

ページから、光が出た。文字が光った。リラの指先が特定の行をなぞった瞬間、広間の空気が震えた。

その一瞬、リラの胸の中に、今まで読んできた本たちの顔が過ぎった。ワイバーンを出した本。雷を呼んだ本。炎を描いた本。ページをめくるたびに広がった、あの無限の想像の翼。それが今、ここにある。

リラはカイを一瞬だけ見た。

あの本たちがなければ、この場所には来られなかった。でも本だけでも、ここには来られなかった。

低い音が、床から来た。石が共鳴し始めた。

僧侶が初めて動いた。リラの方を向いた。

その瞬間、アルヴィが動いた。

正面から、千年分の魔力を放った。光ではなかった。熱でもなかった。空間そのものを押し込むような、質量を持った力だった。僧侶が向き直った。二つの力がぶつかった。空気が歪んだ。石柱の一本に亀裂が入った。

「カイ」

リラが言った。声は小さかったが、届いた。

カイには分かった。

リラが作った共鳴の通り道、その延長線上に、因果の死角がある。リラが石柱の共鳴を使って、力の流れを書き換えていた。僧侶の防御に、一点だけ穴が開いていた。

カイが走った。

正面でも側面でもなかった。床を転がるように低く入った。泥臭かった。華麗ではなかった。でも速かった。僧侶の懐に、誰よりも速く入った。

その時、ブラートが動いた。

初めてだった。

音がなかった。気配もなかった。ただ、次の瞬間にはブラートが僧侶の背後にいた。カイが正面から入った瞬間に、背後を取っていた。カイでさえ、いつ動いたか分からなかった。

僧侶が完全に止まった。

前にカイ。後ろにブラート。左右にアルヴィの魔力。床からリラの共鳴。

四方が塞がれた。

カイは剣を使わなかった。

手を置いた。僧侶の胸の中心に。何かを通す、という手の置き方だった。

同じ瞬間、地下の深い場所で、低い音がした。

シオン側が制御核に触れた音だった。

装置の出力が、急激に落ちた。

僧侶の影が薄くなった。ゆっくりと。音もなく。中のものが抜けていった。最後に、老いた顔が戻った。疲れた顔だった。それから消えた。

広間が静かになった。

カイは手を見た。何かが通った感触がまだあった。

ブラートがカイの隣に来た。

カイより頭一つ分背が高かった。近くで見ると、さらに大きかった。

ブラートはカイを見た。

「泥臭いな」

「うるさい」

ブラートが笑った。理由のない笑い方だった。何かが面白いからではなく、ただそこにいることが楽しい、という顔だった。

カイはその笑い方を見て、何も言えなかった。

リラは本を閉じた。手が少し震えていた。震えていたが、笑っていた。

アルヴィがリラを見た。

「よくやった」

リラは笑ったまま頷いた。

その時、東側の通路から足音が来た。シオンとエリオと、艦隊の兵士たちだった。粉塵で少し汚れていた。エリオの制服の袖が焦げていた。

シオンは広間を見た。終わっていた。

「遅かったですか」

エリオが言った。

「いいタイミングでした」

アルヴィが答えた。

シオンは僧侶の法衣が残った場所を一度だけ見た。それから天井を見た。装置の出力が落ちて、壁の文様の光が消えていた。広間が暗くなっていた。暗い方が、自然だった。

「エリオ」

「はい」

「制御核の状態を記録しておいてくれ。後で見たい」

「分かりました」

エリオが動き始めた。シオンはハーブの茶が飲みたいと思った。今日はまだ一杯も飲んでいなかった。


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