特使
エレアが城に到着したのは、夕刻だった。
ヴェルダ国の使用人が案内してきた時、シオンはエリオと地図を広げていた。エリオが先に気配を察して顔を上げた。
扉の前に立っていたのは、小柄なエルフだった。ティアより背が高く、アルヴィより低い。法衣に似た薄い外套を纏っていたが、それはヴェルダ国の様式ではなかった。どこか別の場所から、長い時間をかけてここに来た、という旅の疲れが、その立ち姿に滲んでいた。
「シオン提督に、お目にかかりたい」
声は静かだった。落ち着いていたが、その落ち着きは余裕から来るものではなかった。長い時間をかけて、静かにするしかなかった、という種類の落ち着きだった。
「私です」
シオンは地図から顔を上げた。エレアを一度だけ見た。それから椅子を一つ、テーブルの前に引いた。
「座ってください」
エレアは一瞬だけ迷った。それから座った。
「ナイラ女王からの書状を預かっています」
エレアが外套の内側から封書を取り出した。シオンは受け取り、封を開けた。数行読んで、テーブルに置いた。
「読みました。あなたから直接聞かせてもらえますか」
エレアは小さく頷いた。
「僧侶は、ガルドスに憑依していたものと同じ存在に操られています。王は知らない。私が王に話そうとしたことは、二度あります。二度とも、翌日には記録が消えていました」
シオンは何も言わなかった。
「アルヴィ様は、すでにご存じのはずです」
「そうですか」
シオンはハーブの茶を一口飲んだ。カップを置く音だけが、部屋に響いた。
「エリオ」
「はい」
「アルヴィさんを呼んでくれ。それと、この話は今夜ここだけで止めておく」
エリオが頷いて、部屋を出た。
エレアはテーブルの上で手を組んだまま、シオンを見ていた。この提督が次に何を言うのか、測っている目だった。
シオンは地図に視線を戻した。
「ご苦労でしたね、ここまで来るのに」
それだけ言った。エレアは少し間を置いた。
「……はい」
廊下の向こうで、エリオの足音が遠ざかっていった。




