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人参の話
夜が深まった頃、シオンは自室の机の上に地図を広げていた。
エリオが隣に立っていた。報告書を持っていた。読み上げようとしていた。
「エリオ」
「はい」
「エルト王は何が欲しいと思う」
エリオは少し考えた。
「技術、でしょうか。農業か、建設か」
「そう言っている。でも本当に欲しいのは」
「……信頼、ですか」
「隣国に舐められたくない、という気持ちと、民を豊かにしたいという気持ちが、同じ重さでそこにある。あの王は正直だから、自分でも分けられていない」
エリオは黙って聞いていた。
シオンは地図の一点を指で押さえた。どこを指しているのかは、エリオには見えなかった。
「人参をうまそうに見せておくか」
「……」
「今はそういう段階だ。下手に本物の技術を渡して世界のバランスを崩す必要はない。ただ、我々が強大な力を持っているという背景を見せておくだけで、それは十分な交渉のカードになる」
エリオは報告書を持ったまま、少し間を置いた。
「半分だけ、分かりました」
「上等だ。残りの半分は、もっと汚い大人の世界を知ってからでいい」
シオンはハーブの茶を一口飲んだ。カップを置く時、口の端が少し動いた。笑ったのかもしれなかった。エリオには判断できなかった。




