根菜スープ
誰かが、根菜を集めてきていた。
ティアが村人から分けてもらったらしい。リラはそれを受け取り、要塞都市の仮設厨房へと向かった。鍋の底に油を引き、野菜を切る。ルミナス湾のものとは、形も色も少し違う根菜だった。
煮えてきた頃、カイが黙って入ってきた。
リラは何も言わなかった。椀によそって、テーブルに置く。カイも何も言わずに、腰を下ろした。
一口、飲んだ。
「……悪くない」
リラは少し笑った。
「ルミナス湾のと、少し違うわ。根菜の種類が違うから」
カイは椀を見たまま、もう一口飲んだ。
「ああ。でも、悪くない」
二人は黙って食べた。鍋が小さくぐつぐつ鳴る音だけが、厨房に満ちていた。
――
夜が深くなった頃、カイは一人で外壁に立っていた。
ティアが飛んできた。カイの肩に止まらず、顔の前でホバリングして、じっとこちらを見た。
「ねえ、カイ」
「なんだ」
「本当はエルド・ラインに帰りたくないんじゃないの?」
カイは即答しなかった。星を見たまま、少し間を置いてから言った。
「戦いが終わったら考える。今は、ここにやるべきことがある」
「それってリラのことが心配なんでしょ」
カイは何も言わなかった。
ティアはため息をついて、夜の中へ飛んでいった。
カイは星を見上げた。並びがルミナス湾とも、エルド・ラインとも、少し違う。
それでも悪くなかった。
――
仮設司令部の灯りだけが、まだついていた。エリオが「提督、明日の出撃時刻は」と言いかけると、シオンは「知ってる」とだけ答えた。紅茶のカップが、もう冷めていた。
夜遅く、リラは本を開いたまま眠っていた。椅子に浅く腰かけ、カバンを膝の上に抱えたまま、静かに寝息を立てている。
カイが通りかかり、足を止めた。
上着を脱いで、肩にかけてやる。本の表紙を、一瞬だけ見た。おとぎ話の絵本だった。
それから、その顔を見た。
(静かだった。エルド・ラインには、こういう夜がなかった)




