ひとりの夜
アルヴィが焚き火の前に戻ってきた夜、リラは部屋にいた。
条件は、聞こえていた。テントの布一枚を隔てたところで、ルテが小声で「カイとリラのことだよ、たぶん」と言った。アルヴィが「うん」と答えた。それだけだった。
リラはカバンを膝に抱えたまま、しばらく動けなかった。
(分かってた)
分かっていた。前から、薄々。でも分かっていたことと、言葉になることは、違う。
カバンの中に、本はもう残っていない。最後の一冊を使い切ったのはヴォルケンとの戦いだった。白いページが空中に舞い、アルヴィの光に照らされて、一枚一枚が言葉を失っていった。あの瞬間に何かが決まっていたのかもしれない、とリラは思った。
おとぎ話は、いつも正しかった。
物語の守り手は、ここに残る。
カイは、帰る。
リラは声を出さなかった。出せなかった。仮設の宿の薄い壁の向こうで、要塞都市を造る槌の音がまだ鳴っていた。誰かが笑っている声がした。シオンが何かを言って、エリオが何かを返す気配もした。
誰かに気づかれないように、リラは泣いた。
泣きながら、可笑しいと思った。おとぎ話では、守り手は必ず報われる。でも報われ方は、一つではない。
カバンは空だった。でも自分の中に、まだ何かがある。本が全部燃えても、読んできた言葉たちはどこかに残っている。それだけは、分かった。
泣き終わって、リラは顔を拭いた。
目を赤くしたまま、星を見た。
遠かった。でも今夜だけは、その遠さが怖くなかった。




