表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/78

守るための覚醒

その時、カイは一瞬だけ目を止めた。遠くの空に、見覚えのある旗があった。ガルドスの紋章ではなかった。ジェイルの旗が、向きを変えていた。

シオンの作戦書を抱いたまま、セラナは再び戦火の空へと飛び出していた。艦内には、シオンの代理として同乗したエリオの姿もあった。

「……君が、シオン提督の身の回りをお世話してきたのね」

展望デッキの揺れに耐えながら、リラはエリオを見つめた。エリオは艦内の状況を確認しながら、振り返った。

「エリオは、怖くないの? 自分の故郷を遠く離れて、こんな恐ろしい戦場にいて……」

「怖いですよ、もちろん」

エリオはまっすぐにリラを見返した。

「でも、僕はどんな世界になろうと、シオン提督のお命だけは守りたいんだ。あの人は、戦いが終われば、歴史学者として静かに本を読んで暮らすべき人だから。そのためなら、僕はどんな現実だって受け入れる」

リラは返す言葉を探した。見つからなかった。

(私は……戦場の生々しさに怯えて、膝を抱えていただけだったわ。でも、エリオは、カイは——)

その先は、言葉にならなかった。胸の奥で、何かが動いた。

その時、セラナの警報がけたたましく鳴り響いた。

「——敵襲ッ! 上空から急速接近するバトラー機、複数! 駆るのは……ジェイルだ!」

ニエルの叫び。ガルドスから離脱したジェイル率いる高機動バトラー機の部隊が、戦乱のドサクサに紛れてセラナを完全に包囲したのだ。ガルドスの旗は捨てた。動く理由は、別にあった。カイのヴァルトとライラのダーンが即座に応戦するが、ジェイルの狡猾な連携の前に、徐々に劣勢へと追い込まれていく。

「くそっ、このままじゃ城に着く前に落とされるぞ!」

激しい衝撃がセラナを襲い、艦内が火花を散らす。

リラは格納庫へと視線を走らせた。そこには、かつてエルド・ラインで使われていた、今は誰も乗っていない旧式バトラー機「ダーナ」が眠っていた。

「ニエルさん! 格納庫にダーナが残っていますよね!」

「ダーナ!? ああ、あるが……パイロットがいない!」

「私が動かします!」

「バカ言うな! あんたは聖戦士じゃない、乗れるわけがないだろ! しかもあれは旧式だぞ、ジェイルの最新鋭機に敵うわけが——」

「あれを、最高の"囮"に使います。……任せてください!」

リラはカバンを床に投げ出すと、甲板へと駆け出した。

爆風と硝煙の中、リラは両腕を天へ向けて振り上げた。

(おいで、私の想像の騎士! 誰かを守るための、物語の主役たち——!!!)

ドォォォォン!!

リラの身体から、白銀の思念力が爆発的に放出された。格納庫へと流れ込んだその精神波が、誰も乗っていない「ダーナ」のコンバーターを強制駆動させた。

ガガガガガッ!

ダーナの眼光が白銀の輝きを放って点灯する。そして、無人でありながらハッチを蹴り破り、大空へと飛び出した。

「何だと……!? パイロットも乗せずに、ダーナが動いているだと!?」

最新鋭機のコックピットで、ジェイルは目を見開いた。無人のダーナは、物理法則を無視した不規則な動きで、ジェイルの全神経を釘付けにした。

「しまっ——陽動か!?」

気づいた時には、すでに遅かった。ダーナが作った一瞬の隙。その死角から、カイのヴァルトが電光石火の速度で肉薄していた。

「——そこだッ!」

光の刃の一閃が、ジェイルの機体の主翼を切り裂く。

「ええい、カイめ! 命拾いしたな!」

ジェイルは煙を吹きながら戦場の彼方へと急降下し、敗走していった。

戦場が静まり返る。ダーナは光の粒子となって崩れ落ち、リラは甲板に膝をついた。

(今度は、本じゃなかった)

震える両手を見つめる。指先一本、動かすのが重かった。体の芯から何かが削れている感覚がした。本を介していないぶん、消耗が直接くる。それは分かった。

駆け寄ってきたエリオが、呆然と彼女を見ていた。

「リラ……君は、一体……」

リラは乱れた赤茶の髪をかき上げ、エリオに向かって笑顔を向けた。

「ありがとう、エリオ」

甲板に出ると、リラが膝をついたまま、自分の手のひらを見ていた。

カイは黙って隣にしゃがんだ。

「……大丈夫よ」

「見ればわかる」

リラが小さく笑った。カイはその横顔を一瞬だけ見てから、前を向いた。

(いつから、こんな顔ができるようになった)

城壁が、もう目の前だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ