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第3章-4

 ヘルトはくすんだ赤色の飛竜を連れて戻ってきた。合流すると、真っ先にシェキルの治療が行われた。


「このオーブが消えるまで我慢してね」


 黄色がかったオーブを目元にかざすウィージャに、ヘイレンはどういった処置をしたか話した。医師はうんうんと頷きながら聞いていた。


「ヘイレンはそもそも自己治癒力がずば抜けてるからすぐに治ったけど、本来は数日かけて治っていくものなんだよね。一旦ガーデンに戻ってもらうほうがいいのはいいけど……」


 シェキルの表情は、また険しいものになっていた。それは痛みに耐えているのか、戻ることに抵抗があってのそれなのか。どっちもかもしれない。


「ヘイレン、悪いけどここで何が起きたのかと、君が聞いた『声』の言葉をみんなに話してもらえるかな?」


 シェキルが言う。ヘイレンは頷いた。湖から翡翠色に光る物体が現れたこと、その時ミスティアは厄災を終わらせにきた、自分が最後の贄だと言ったこと、巨大な魚に飲み込まれて湖へと消えていったこと……。


「え、じゃあ、ティアはもう……」


 フレイは口元を両手で覆って青ざめている。その隣で、仁王立ちのレントがため息をついた。


「早々にティアを死なせてやるなよ……」

「う……ごめん。でも……」

「湖に沈みっぱなしじゃあそうなってるかもと思うのはわかるけどよ……」

「たぶん、まだ生きてます。ボクが聞いた『声』は、ミスティアだったから」


 くず折れそうなフレイだったが、ヘイレンの言葉で持ち堪えた。その『声』が何と言ったのかをみんなに話すと、しばし沈黙が降りた。


「……水の底ってのは、水界か?波の壁は……ポセイルのでけぇ門が波模様だった気がするな」


 レントは記憶を掘り起こしている。ヘイレンは水界がどんなところなのかと、そっちに興味を持ってしまっていた。


「祠の核……翡翠の王の核はそこにあるということか。泉とは……?」

「ん、ちょっと待て。翡翠の王の核だって?」


 レントが訝しげな顔でシェキルを見た。


「翡翠の王はコア族だったらしい。ここにくる前に、ミスティア先生に取り憑いていた、自称核の守護者がそう言っていた」

「コア族……だった……まさか」


 ハッとする都長に、ヘイレンとフレイは彼に自然と視線を移す。


「知ってるんですか、翡翠の王のこと?」

「ああ、まあ……。でも、王がつくような偉いやつではなくて、普通のコア族だったと思うんだが……」


 レントは自分を落ち着かせるためにひとつ大きくため息をついた。


「ちとな……やらかしたんだよ。簡単に言うと、ヒトを殺した」

「えっ……」


 フレイが絶句する。


「レントさん、それは、生贄を喰らってたという意味での『殺した』ですか?」

「いや、違う。これとは全然関係ない」

「そう……ですか」

「……あいつはヒトを殺して、その後捕えられて処刑された。ヒトを殺すは大罪だからな、核を抜き取られて、砕かれた。身体は……焼いた、俺が」

「えっ!」


 フレイがレントから少し離れた。


「お……コア族の王に命ぜられてやったんだ、俺の感情でやったんじゃねぇぞ。そこは勘違いすんなよ?」

「え、ええ……そうよね、ええ……」


 距離を置いたまま戻ってこない。余計なことを喋っちまったな、とレントは少し視線を下げた。


「……とにかく、あいつはとうの昔に死んでるはずなんだ」

「レントさんが言う『あいつ』ではない、別の翡翠のコア族という可能性は?」


 確か、レントの核は紅玉(ルビー)だ。同じ核を持つコア族は他にもいると聞いた。だから、翡翠も複数ニンいるのではないかと思った。


「ああ……それならないな。翡翠はあいつしかいねぇから。確かに昔はもうちょっといたんだけどな……」


 いろいろ事情があって、レントのいう『あいつ』が翡翠を核に持つコア族の最後のひとりになってしまったらしい。ところで、なんでずっと『あいつ』なんだろう?そういやそんな呼び名で呼ばれ続けてたヒトが他にもいたような気がする……。


「レントの知らない翡翠の核を持つコア族が、今こういう事態を起こしている……ということは?」


 オーブをかざしながら今度はウィージャが問うた。手のひらを広げたくらいの大きさだったそれは、だいぶ小さくなっている。


「俺の知らない翡翠のコア族……か。知らねえ奴はいねぇつもりでいたが、冷静に考えるとそれが正解かもな」


 レントは腑に落ちた様子だった。以降、『あいつ』の話はしばらく鳴りを潜めた。


「で……いずみって?」


 フレイがそっと聞いてきた。相変わらず距離は縮まっていない。


「……俺もそこは知らん。『湖』ではなく『泉』だったのか?」


 レントの鋭い視線に、ヘイレンは少し萎縮する。


「みずうみ……いずみ……あぁ……似てます……ね……」


 やばい、聞き間違えたかもしれない。焦りで鼓動が速まる。


「湖だったら、ここ……でしょうか?」


 ここに戻してきたらどうなるの?ミスティアが戻ってくるの?翡翠の王が姿を現して、大厄災を起こすのか?疑問と不安が渦巻く。


「命の湖のことかと一瞬考えたが、ここに戻すという考えもあるか」


 命の湖……コア族の故郷にある湖で、その場所は彼らのみぞ知る。そうシェラが言っていたなと思い出す。


「水界へ行ってみて祠を探して核を見つけてからだな。湖か泉か、どちらにせよそれがどこにあるのかも、水界の民に聞いてみてもいいんじゃねえか?」


 レントの提案に、皆が頷く。


「んじゃ、向かう前にこの湖の様子でも見てみるか。ティアが無事かどうか確かめておかねぇと気が気じゃねぇ」


 都長が動こうとした時、ウィージャの手からオーブが無くなった。皆、シェキルの様子を見守る。ゆっくり瞼を開けた蒼竜騎士の空色の眼は、美しいものだったが……。


「変わってなさそうだね」

「……そう……ですね……。オーブが全く効かない、なんてことあるんです?」

「いや……これは……単なる霧魔法じゃないかもしれない。封印効果のあるやつかも」

「……ミスティア先生に解いてもらわないとダメなやつですね」


 そうなるねぇ、とウィージャの返答に、蒼竜騎士は落胆した。不穏な空気に包まれる。


「おそらくこれは、かけたほんにんが事切れると効果も切れるんだろうな。そうだとしたら、先生は生きていることになる。複雑だけど、今は見えていない方がいいのかもしれないな」


 乾いた笑いを浮かべる様子に、ヘイレンの心が痛む。


「みんなの気配はわかる。位置も大体は把握できる。レント、あの湖の様子を見るなら気をつけて。先生と同じ目に遭うかもしれない」

「ん、わかった。てか、その、ティアが喰われた魚が飛び出してきたら捌いてやったらいいんじゃねぇの?」


 と言いながら、メイスを取り出して湖へと歩いていく。


「ねえフレイ、サバくって?」


 ヘイレンはレントに聞こえないようにフレイに近寄って小声で問うた。唖然としていた竜騎士は、んーと少し考えた。


「食材を切り分ける時に使う言葉……かな。市場においてあるお魚ってね、調理しやすいように刃物で切っていくのよ。頭を取って、身体も2枚か3枚におろして……って」

「へぇ……。でも、レントさんの武器って、刃物に見えないんですが」

「ええ。メイスだから切れないわね。シェキル様の槍みたいなものでないと。頭部を思いっきり殴って昇天させるつもりなんでしょう。捌くのはその後。でも、それでティアまで切っちゃったら大変よね」


 それはダメだ!ミスティアを助けるのに、彼女を切るってことは殺してしまいかねない!殴った拍子で吐き出してくれないかな……。


「とにかく、レントの援護よ。ヘイレンも構えて」


 フレイは自分の武器を魔力で出した。大きな竜の頭を模った、これも『刃物系』ではなさそうなものだ。しかも、華奢なフレイに持てるの?と不安になるくらいに頭が大きい。


 そんな心配をよそに、フレイは両手で持ってレントの後について行った。


「あ、待って」


 ヘイレンも行こうとした時、ウィージャに呼び止められた。


「ふたりに戦闘は任せて、ヘイレンはこっちを守ってくれないかな?シェキルさんは満足に動けないし、私も戦力はないから……」


 ウィージャは元騎士だったと聞いたが、武器を持たなくなって長いのだろう。ヘイレンはゆっくり頷いた。ふたりを自分の背中側において、杖を構える。いつでもバリアが貼れるように魔力を溜めておく。


 レントが左手に火の玉を作ると、それを湖に投げた。大きく弧を描き、それは湖の中心付近に着水した。消えるのかと思いきや、黄色い炎が水の表面を走り出した。ゴポゴポと音が鳴り出す。


「来るぞ!」


 レントの掛け声で、ヘイレンは杖をかざした。バリアが貼られる。2頭の飛竜が同時に飛び立つ。豪快に水飛沫をあげて飛び出してきたのは、ミスティアを連れ去った巨大な魚だった。


「ヘルト!」


 シェキルの号令で、飛竜はブレスを放った。しかしそれを魚は器用に身体を捻って避けた。魚に向かってレントが駆け出す。大地を蹴って、魔力を全身に巡らせてジャンプした。凄い飛躍で、あっという間に魚より高い位置に行くと、炎をまとわせたメイスをぶん回した。


 ばこん!と鈍い音がした。魚は殴られて吹っ飛ぶ……ことはなかった。カッ!と魚は顔をレントに向けると、その勢いで身体を跳ねさせてヒレで反撃した。それを左腕で受け止めたのだが、ヒレはレントが身につけていたガントレットを裂いた。


 レントは一旦湖の際に着地した。魚が上から突っ込んでくる。燃えるメイスを突き上げると、炎の柱が魚を焼いた。香ばしい匂いに、バリアを張る手が緩みそうになる。


 魚は燃えたままレントのそばに落ちた。ビチビチと跳ねて、湖に戻ろうとしていた。それを渾身の一撃で止めたのはフレイだった。尾びれ付近に彼女の武器が振り落とされると、杭を打たれたように魚は動けなくなってしまった。


「さぁて、ティアを返してもらおうか!」


 ぐったりした魚の、半開きになった口の顎側を踏み、メイスでぐいっと口を大きく開かせた。つっかえ棒のようにメイスを立てて口を閉ざさないようにすると、レントは覗き込んだ。


「おっ」

「何?ティアがいたの?」

「いや……。玉みてぇな光が見える。掴めるかな?」

「喰われないでよ?」


 さてどうかな、と言いながら、レントは左手を突っ込んだ。魚は無反応だったが、フレイは武器を持ったまま少し震えていた。


「あっ」

「なにっ?」

「引っ張るぞ!ヘイレン、ちと手伝え!」


 慌ててレントに駆け寄ると、指示通りに彼を支えた。体の割に口は小さいことに驚く。その口でミスティアを丸飲みしていたのか!?


 せーの、の掛け声で、レントは左手を引いた。その時、魚が反応して身を捩らせようとした。レントはメイスを握って外れないようにした。フレイはグイッと武器を押さえた。と、急に魚が翡翠色に光り出す。


 どん!と低音と共に魚は波動を出した。急に抵抗が無くなり、ヘイレンたちは吹っ飛んだ。なんと、魚が木っ端微塵になってしまった!


「なっ!」


 誰もが唖然とする他無かった。光は消え、風が魚の残骸をさらっていった。


「……み……ミスティアは?」


 ヘイレンはようやく声を絞り出した。レントは彼女の腕かなにかを掴めていたのだろうが、その左手は何もなかった。いや、ギュッと握りしめているので、何か得たのだろうか?


「レントさん……?」


 恐るおそる声をかけると、あぐらをかいてその左手を見つめていたレントがチラッとこちらを見た。


「これ」


 左手を開く。緑の丸い石が現れた。魔法石にしては小さいし、なぜか穴が空いている。


「これって……」とフレイが近づいてきた。一緒に吹っ飛ばされたが、怪我はなさそうだった。


「ティアが着けていたブレスレットの石じゃない?」


 ヘイレンは気づいていなかったが、ミスティアが身につけている腰紐にブレスレットを着けていたらしい。この石だけということは、吹っ飛ばされた拍子で壊れてしまったのだろうか。


「これな……コア族の核、ってわけじゃねぇけど、なんか嫌な感じがするんだよな。ちと今は説明できねぇけど」

「ねえ、ティアはどうなっちゃったの?レントは何を掴めていたの?」


 フレイの問い詰めにレントはしばし閉口する。都長を見つめる橙色の眼から、雫が伝い始める。魔物の気配も無いので、ヘイレンは黙ってそっとバリアを消した。


 ウィージャがシェキルを連れてヘイレンたちのもとまで来た。この一部始終を見ていた医師は、レントが握っていた翡翠石を眺めながらぽつりと言った。


「一旦、ダーラムに戻ろう」


 その魚の中は実はどこかと繋がっていて、その先に彼女がいるのではないか。そう考えたくなる。なぜなら……。


「封印効果、まだ解けていないんだ。ちょっと魚の内部がどうなっていたのか謎だけど、ティアはまだどこかで生きている。だから……一旦戻って立て直そう?」


 ウィージャの言葉に、レントは小さく頷き、フレイは涙を拭いた。飛竜たちが降りてきたタイミングで、ヘイレンたちは立ち上がった。


「フレイ、ポルテニエに向かってくれねぇか。そのままポセイル入りしたい」

「……わかった」

「そういうわけで、俺たちは港町に向かう」

「ん、そっか。気をつけて。じゃあ私はヘルトに乗せてもらって、ヒールガーデンまで連れてってもらおうかな」


 さて、ボクはどうしようか。レントたちかシェキルたちか。後者だともう、ミスティアを追えなくなる。単独行動はしない、とシェラと約束しているから。けれども、視力を封じられているシェキルに、ヘルトの操縦はできるのか?ボクもウィージャも竜騎士じゃないし……。でも、掛け声で攻撃はしてたな……。


「ヘイレンはどうする?レントについていくかい?」


 あれこれ考えていると、シェキルが声をかけてきた。


「ヘルトはガーデンの場所もそうだけど、今の状況を理解しているから、私が操作できなくとも向かってくれる。何なら先生に操作してもらってもいいからね」

「……え、私が?」


 突然振られて医師は目を丸くする。


「操作と言っても行き先を伝えるだけで、あとはしっかり乗っていたら大丈夫ですよ」

「あ、ああ、それなら私でもできるか。何かしなくちゃいけないのかと思ってちょっと焦っちゃった」


 はは、とウィージャは苦笑する。


「それじゃあ……ボクも港町へ……ついて行っていいですか?」


 ヘイレンはレントに窺った。レントはフレイをチラッと見る。彼女は黙って頷くと、都長も頷いた。


「俺たちは構わねえけど、そういやお前、シェラの横にいなくていいのか?」

「シェキルさんとここに来る前に、必ず誰かと一緒でいることを条件に、ダーラムの外に行くことを許してもらってます」

「……そういうことか。じゃあ行くか」

「はい!……あの、先生、シェラにこのことを伝えてもらうことは……」

「ん、もちろん話しておくよ。水界も魔物がいるから気をつけてね」


 もう多少の魔物はへっちゃらかな、とウィージャは笑う。たぶんね、とヘイレンも微笑した。ヘイレンはシーナのそばに行き、頭を下げている飛竜の鼻面を撫でてから、前脚を伝って背中に乗った。


 ……飛竜の騎乗も、すっかり慣れちゃったな。


「さっきもチラッと話したが、そこから潜水艇でポセイルって水の国の首都に行く。……あ」


 ヘイレンの前に座るレントは何か思い出すと、徐に魔法を出した。淡い赤い光を放つ玉を作ると、右手のひとさし指で円を描いた。玉の中で、黄色っぽい光がぐるぐる回る。


「……気になるか?」


 食い入るように見つめていたのを見られてしまった。素直に頷くと、レントはふっ、と微笑した。


「王へ謁見依頼の魔法石を作ってた。地界なら伝書鳩を送るんだが、水界に鳩は使えないからな。魔法石に伝えたい事を書き込んで、届け先とジンブツ名も書き込む……っと」


 淡い光が消えた。レントがその濃い赤色の丸い石をポイっと放り投げると、それはヘイレンのはるか後ろへと移動した。いや違う、ボクたちが高速で進んでいて、石が置いて行かれた形だった。


「あとは勝手にポセイルの王城まで行く」

「すごい……。あれって魔物に襲われたりするんですか?」

「さあ?襲われるところを見たことがねぇから何とも言えねぇな。魔物はヒト以外興味を持たないって聞くからよ、アレが壊れることはねぇはずだ」

「へぇ……」


 振り返ってみたが、もうどこにあるのかわからない。何なら、日が暮れて闇に包まれ始めていた。少し怖くなってレントの背中に視線を戻した。


 それからあまり経たないうちに、シーナは高度を下げ、減速した。港町ポルテニエは明るい光で満ちていて、美しくその場を示していた。






 シーナは竜騎士ふたりとヘイレンを降ろすと、どこかへ飛んでいった。終便の時刻は過ぎていたため、ポセイルへは明日の潜水艇で向かうことになった。


 宿をひとりひと部屋取って、3にんは商店街へと繰り出した。海産物を焼いて食べる「浜焼き」のお店に入った。お客さんがたくさんいて、とても盛り上がっている。楽しそうな声があちこちで飛び交う中、3にんぶんの「浜焼きセット」が運ばれてきた。


「うわぁ……すっごい!」

「昼の漁で獲れた魚と、こっちは貝ね。あ、そうそう。これが魚を捌いた後の姿よ」


 と嬉しそうにフレイが教えてくれた。『捌かれた魚』に頭はなく、身は尾びれを残して真っ二つになっていた。


「なんだ?お前ら何の話してたんだ?」


 レントは魚の半身をトングで掴んで、テーブルの真ん中に置かれた大きめの網に置いた。じゅううう、と焼かれる音と、白い煙がぶわりと立った。その隣に殻を閉じたままの貝を3つ置いた。こちらはうんともすんとも言わない。


「ちょっとね。魚を捌くって意味をね……ふふ」

「ああ、捌いたらいいんじゃね?って言ったな、俺。ピンときてなかったのか」

「……はい。だから、フレイに聞いちゃいました」


 緊張感ある中で変な質問をしたなと、ヘイレンは今更青ざめたが、竜騎士たちは笑っていた。


 少しして、レントは魚の切り身をひっくり返した。ところどころ焦げ目がついた皮目が、なんとも香ばしい匂いを運んでくる。見た目もすごく美味しそうだ。


「あ、この香り……あの魚が燃えた時と同じだ」

「まあ……魚は焼くとこういう香りだな。あれは魔物だったから、到底食えたもんじゃねぇけど」

「……ティア、どこにいるのかしら」


 フレイの不安そうな表情に、レントがため息をつく。


「水界のどこかにいるだろ。ヘイレンが聞いた言葉を辿っていけば、おそらくティアに会える。俺はそう思ってる」

「そうよね……うん。必ず見つけましょう。翡翠の王から助けないと」


 ん、とレントは頷きながら、もう一度切り身をひっくり返す。いい焼き目がついている。皿を取って、切り身をそれに移すと、フレイとヘイレンにわたした。


「美味しそう……!そう言えばレントさん、焼く前に何かふりかけてましたが、あれは何?」

「あ?ああ、これか。塩。焼き魚には欠かせねぇ調味料だ。焼いてから好みでかけてもいいが、かけ過ぎると塩辛くなるから気をつけろよ」


 調味料というものは塩以外にもたくさんあるらしいが、それはまた教えてもらうとして……。フレイが切り身を解して食べるのを見つつ、ヘイレンもマネをして身を解し、一口頬張った。魚の旨味と塩の辛味が絶妙に合う!


「んー!美味しっ!うわぁ……こういう味なんだね、魚って!」

「ふふ。お好みでレモン汁をかけたり醤油をつけたり、あと、大根おろしを乗せてポン酢をかけて食べるのもおすすめよ。私、それが一番好きなの」


 確かにセットの中に「薬味皿です」と店員が置いていったそれに、すり潰された白いものがあった。フレイは白いものを適量取って、切り身の上に乗せ、濃い色の液体を少しかけていた。レントはレモンの切り身をギュッと絞ってから、パクリと口に放り込んでいた。


 網の上では静かだった貝たちが沸々と泡を出していた。じっと見つめていると、突然パカッと開いてヘイレンは跳ね上がった。その様子に竜騎士たちはまた笑っていた。


 海鮮をたらふく堪能した3にんは、明日に備えて早々に寝床についた。

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