第70話 さらなる決意
密使が逃げ去った広場には、領民たちの歓声と熱気が再び満ち溢れていた。
「ざまあ見ろ! 今さら泣きついたって遅えんだよ!」
「そうだ! リーゼロッテ様は俺たちの領主様だ!」
口々に叫ぶ領民たちの笑顔を見渡しながら、私は破り捨てた手紙の紙片を、吹き抜ける秋風へと逃がした。
不快な過去との繋がりは、これで完全に絶たれたのだ。
「……すっといたしましたわ」
エレナが晴れやかな表情で胸を撫でおろし、私の隣へ歩み寄ってきた。
「かつては王都の権威に怯えるばかりでしたけれど……今の私たちが作り上げたこの北領の誇りは、どのような圧力にも屈しませんのね」
「ああ。俺たちの居場所は、俺たちの手で守り抜いたんだ」
テオも力強く頷き、自警団の仲間たちと満足そうに顔を見合わせた。
祭りは夜に向けて、さらに賑やかさを増していく。
広場の中央には大きな篝火が焚かれ、酒杯を交わす大人たちの歌声と、元気に駆け回る子供たちの笑い声が夜空へと溶けていった。
「お嬢様、少々冷えてまいりました」
アルフレッドさんが静かな手つきで温かい紅茶を淹れて差し出してくれる。一口含むと、心地よいハーブの香りが全身に染み渡った。
少し離れた高台へ移動し、賑わう街並みを見下ろす。
柔らかな灯火が連なる北領の景色は、かつて雪と枯れ木しかなかった荒野とは比べものにならないほど、温かく輝いていた。
「リーゼロッテ様」
静かな足音とともに、ルークが私の隣に並んだ。ランプの光に照らされた彼の瞳は、深く澄んだ温もりを宿している。
「王都の支配も、伯爵家の縛りも、もうあなたを追うことはできません。ここは、あなたが自らの知恵と情熱で咲かせた、揺るぎない領域です」
「ええ……。ルーク。私、この場所に出会えて……あなたたちに出会えて、本当に幸せよ」
私が微笑むと、ルークは眼鏡の位置を直し、愛おしそうに目元を緩めた。
「僕もです。あなたの描く最適で温かな未来を、一番近くで支え続けられることが、僕の誇りです」
彼がそっと手を重ねてくる。その体温を感じながら、私は確かな決意とともにまっすぐ前を見据えた。
北領の再建は、私にとって大きな成功体験となった。
だが、これで終わりではない。
ルークが胸に秘める「虐げられた貧村の救済」という次なる目標。
そして、北領の脅威を削ぎ落とすための王都とのさらなる戦い。
どのような試練が待ち受けていようとも、この仲間たちとなら、どこまでも進んでいける。
私は決意を新たにした。
「行きましょう、ルーク。私たちの新しい明日へ」
「はい、リーゼロッテ様。どこまでも、あなたと共に」
星空のもと、手を取り合った私たちは、さらなる高みと新しい未来に向けて、誇らしく美しく微笑んだ。
第1部(北領再建編)完結です




