第7話 現場の反発
「おい、やめろテオ! 何をしてるんだ!」
アルフレッドさんの鋭い声が響くのと同時に、私は畑へと飛び出した。
菜園では、昨日の少年テオと、同じくらいの年頃の子供たちが三人、耕したばかりの土を踏み荒らし、せっかく撒いた木灰をごちゃごちゃに掻き回していた。
「何って、呪いの泥遊びだよ! どうせ何も育たないんだから、こうして遊んだって同じだろ!」
テオは鍬を手にした私を睨みつけ、足元の土をわざと強く蹴り上げた。
「テオ、お前というやつは……! リーゼロッテ様に対して不敬であるぞ!」
アルフレッドさんが一歩前に出ようとするのを、私は手を広げて制した。
「いいわ、アルフレッドさん。――ねえ、テオくん。あなた、ずいぶんとこの土地の『呪い』に詳しいのね」
私は怒鳴りもせず、淡々とテオに近づいた。
「詳しいさ! 俺の父ちゃんだって、じいちゃんだって、ここで何度も種を撒いたんだ。でも、芽が出ても全部途中で腐っちまう。お前みたいな王都の何も知らない令嬢が、ちょっと灰を撒いたくらいで変わるわけないんだ!」
テオの叫びには、単なる悪ガキの悪戯ではない、深い絶望と諦めが混じっていた。
何度も挑戦して、そのたびに失敗し、飢えに苦しんできた領民のリアルな歴史が、その小さな肩に重く乗っている。
(なるほどね。現場が新しいシステムに反発するのは、過去の失敗のトラウマがあるからよ)
前世でもそうだった。不評だった過去の杜撰な計画のせいで、「どうせ次も上手くいかない」と心を閉ざしてしまった現場の人間を、私は何人も見てきた。
「そう。あなたの言う通り、私はここの土地の苦労を何も知らないわ」
私はテオの前にしゃがみ込み、目線を合わせた。
「でもね、私は数字とバグ(問題点)を見つけるプロなの。この土が腐っている理由も、どうすれば治るかも全部わかっている。あなたたちが踏み荒らしたこの土、触ってみて。昨日までと何か違わない?」
テオは不審そうに眉をひそめ、足元の土を恐る恐る指先で弄った。
「……あ。冷たく、ない?」
「そうよ。昨日までは酸性が強くてカチカチに冷え切っていた土が、灰の力で中和されて、動き出しているの。三日後、ここに最初の種を撒くわ。もし芽が出なかったら、この畑をあなたたちの遊び場として一生明け渡してあげる」
「本当に……?」
「社畜、じゃなくて、リーゼロッテの名に懸けて約束するわ。だから三日間だけ、このプロジェクト(計画)を見守っててくれない?」
私がニヤリと笑うと、テオは顔を真っ赤にして「勝手にしろ!」と叫び、仲間を連れて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「……見事な交渉術ですね、お嬢様」
アルフレッドさんが感心したように息を吐く。
「現場の信頼を勝ち取るには、口先じゃなくて実績を見せるのが一番よ。さあ、アルフレッドさん。三日後の仕込みに向けて、倉庫にある一番状態の良い種を出しておいてちょうだい」
泥のついたドレスのまま、私は荒らされた土を丁寧に均し直した。
彼らの諦めを驚きに変える瞬間が、今から楽しみで仕方がなかった。




