第68話「感謝祭の開幕
秋晴れの澄み渡る空のもと、北領の第一回感謝祭が幕を開けた。
中央広場には色とりどりの旗と花飾りが掲げられ、街道沿いには香ばしい肉の丸焼きや焼き菓子の甘い匂いが立ち込めている。
特設ステージでは子供たちが歌い踊り、広場のあちこちで大人たちの弾んだ声と乾杯の音が響いていた。
「リーゼロッテ様、こちらへ!」
集まった人々の中心へ歩み出ると、領民の代表であるゴードンが、少し緊張した様子で一歩前に進み出た。
そのゴツゴツとした両手には、北領の野花と金色に熟した麦の穂で編まれた、一つのかわいらしい花冠が抱えられている。
「これは……?」
「領民みんなで、感謝の気持ちを込めて編ませていただきました。この北領に春と明日をくださった、私たちの『領主様』へのおくりものでございます」
ゴードンが深々と頭を下げると、周りの領民たちからも温かい拍手が巻き起こった。
私が姿勢を低くすると、ゴードンは慈しむような手つきで、そっと私の頭上に花冠を戴せてくれた。
「リーゼちゃん、とても素敵ですわ! まるで自然の女神様のようですの!」
エレナが手を叩いて弾んだ声を上げ、テオもどこか誇らしげに鼻の下を擦った。
「へへッ、街で一番綺麗な領主様だな。誰が何と言おうと、俺たちの自慢だぜ!」
「お嬢様、本当によくお似合いでございます」
アルフレッドさんが目元を緩め、温かい眼差しで微笑んでいる。
ふと隣に目を向けると、ルークが眼鏡の奥の瞳を優しく和らげ、静かに私を見つめていた。
「素晴らしい光景ですね、リーゼロッテ様。……あなたがゼロから最適化し、育んできた努力が、こうして目に見える人々の熱量と笑顔が成果となって結晶化しています」
「ええ……。前世でも今世でも、私はずっと一人で戦っていると思っていた。でも、違ったわね」
花冠の麦の穂にそっと触れる。
「不要品」と烙印を押され、冷たい北の地に打ち捨てられたあの日。
だが今、私の目の前には、私という人間を心から信頼し、温かく包み込んでくれる仲間と領民たちがいる。
社畜時代には決して得られなかった、胸の奥をじんわりと満たす確かな達成感と幸福感。
「さあ、お嬢様! 今日は領民たちが腕によりをかけた料理がたくさん並んでおりますよ!」
「おう! リーゼ、あっちの特設屋台で出来立ての大麦スープも食っていってくれ!」
活気にあふれる広場へ向かって、テオやエレナが嬉しそうに私を引っ張っていく。
ルークもまた、私の歩みに寄り添うように隣に並び、優しく微笑んでくれた。
笑顔と歌声が満ちる北領の空を見上げながら、私は温かい感謝を胸に、最高の一日の始まりを噛み締めていた。




