第61話 不当な干渉の排除
北領の成功が知れ渡るにつれ、案の定、不当な利権を掠め取ろうとする動きが表面化し始めた。
ある朝、アルテハイム伯爵家の紋章が捺された一枚の羊皮紙が、王都の使者によって領主館へ届けられた。
内容は「北領の再建は実家である伯爵家の威光があってこそ成されたものであり、収益の四割を本家へ上納せよ」という、開いた口が塞がらないほど身勝手な要求だった。
使者は高圧的な態度で執務室の真ん中に立ち、顎をしゃくった。
「リーゼロッテ様、速やかに署名なさるといい。追放された身とはいえ、あなたが伯爵家の血を引く以上、本家の命に従うのは義務でございます」
「実家の威光……? 荒れ果てた地に私を追いやり、一切の援助も送らなかったことが『支援』だとおっしゃるの?」
私が冷ややかに問い詰めると、使者は鼻で笑った。
「言葉の綾ですな。血縁関係が存在する以上、法的には本家の管轄下とみなされるのです」
感情的に怒る価値すらない言いがかりだった。だが、私が返答するより早く、ルークが静かに一歩前へ出た。
「失礼ですが、使者殿。その『法的根拠』について、正確な記録を元にお話しさせていただいてもよろしいでしょうか」
ルークは手元の厚い法典と、追放時に交わされた正式な書類を提示した。
「王国領地法第十四条第3項。親家が子を『完全追放』した際、以降の経済的成果権・管理権はすべて当該領地の管轄者個人に帰属すると明記されています。さらに、あなたがた伯爵家が署名したこの『権利放棄誓約書』をご覧ください」
ルークが突きつけた羊皮紙には、公爵本人のサインと印章がはっきりと残されていた。
「『今後一切の関与および権利主張を行わない』――完璧な法手続きが完了しています。あなたの主張は明確な法令違反であり、王国法廷に持ち込めば、不当要求の罪で伯爵家側が罰せられますが?」
「な……ッ!?」
使者が顔を青くして言いよどむと、今度はアルフレッドさんが静かに追撃を加えた。
「ついでに申し上げますと、追放以前に我が北領から伯爵家へ支払われていた不当な名目上の管理費について、現在試算を行っております。この過誤を精算する場合、伯爵家から北領へ相当額の返還義務が生じますが、今すぐ法的手続きを開始いたしましょうか?」
アルフレッドさんが柔らかな笑みを浮かべながら帳簿を提示すると、使者はついに戦慄した。
「くっ……! このような不敬、伯爵様が黙っておらんぞ!」
捨て台詞を残し、使者は逃げるように執務室を飛び出していった。
「見事な対応だったわ、ルーク、アルフレッドさん」
私が息を吐いて称えると、ルークは眼鏡の位置を直し、誇らしげに胸を張った。
「当然です。あなたが完璧に整えた領域を、理不尽な害虫に荒らさせはしません」
「お嬢様の手掛けられた事業は、法的にも実務的にも一分の隙もございませんから」
アルフレッドさんも穏やかに微笑む。
理不尽な圧力をロジックと実務で完璧に跳ね返したことで、北領の不可侵な独立性は、より一層確固たるものとなっていた。




