第53話 仲間たちの笑顔
数日間にわたる「第一回・北領定期自由市場」は大盛況のうちに幕を閉じ、広場には静かな夕暮れが訪れていた。
ランプの明かりが温かく灯る領主館の大食堂に、プロジェクトを成功に導いたコアメンバーが集まっていた。
テーブルの上には、領民たちが作ってくれた温かい料理と、香ばしい大麦のパンが並んでいる。
「皆様、第一回自由市場の最終集計が整いました」
アルフレッドさんが羊皮紙を広げ、朗らかな声で発表した。
「総来場者数は当初の予測を五十パーセント上回り、出店したすべての店舗が黒字を達成。領内にもたらされた経済効果は、昨年の年間予算を上回る規模でございます」
「大成功じゃないか!」
テオが歓声を上げ、隣のルークと力強くハイタッチを交わした。ルークも珍しく少し崩れた柔らかい笑みを浮かべている。
「私の手がけた特産品も、用意した分がすべて完売いたしましたの!」
エレナが頬を桜色に染めて報告した。
「商人の方々から『次はいつ開催するのか』と問い合わせが殺到いたしましたわ。自分が提案した価値がこんなにも喜ばれるなんて……本当に夢みたいです」
「エレナのブランディングがあったからこそよ。商品に『物語』という価値が乗ったの」
私が微笑むと、エレナは嬉しそうに頷いた。
「現場の安全管理も完璧だったぞ」
テオが誇らしげに腕を組む。
「大きな事故も喧嘩もゼロだ。領民のみんなもさ、『自分たちが作った道と市場で、外の人が喜んでくれた』って誇らしそうにしてたんだ。……俺、この北領で現場を任されて本当によかった」
泥に塗れて石を積み、夜遅くまで計算の勉強を重ねてきた少年の顔には、確かな成長と誇りが満ちていた。
「テオ殿の指揮が見事だったからです」
ルークが眼鏡の位置を直し、穏やかな声で続けた。
「データや計画がどれほど優れていても、現場でそれを形にする実行力がなければ絵に描いた餅です。テオ殿と領民の皆さんの頑張りがあってこその数字ですよ」
「へへッ……お前が正確なデータをくれたからだけどな!」
照れくさそうに頭を掻くテオを見て、皆から温かい笑いが漏れた。
「ルークの需要予測と流通解析も完璧だったわ。あなたが裏付けを作ってくれたから、誰もが安心して動けたの」
私が感謝を伝えると、ルークは黒い瞳でまっすぐに私を見つめた。
「僕はただ、あなたの描く未来を数値で補佐しただけです。……僕の知識が、こんなにも温かい笑顔を生み出せるのだと、あなたに教えていただきました」
その言葉に含まれた静かな情熱に、私の胸の奥がふっと甘く締めつけられた。前世の損益計算書では測れない熱を誤魔化すように、私は手元のグラスを取った。
「みんな、本当によくやってくれたわ。誰か一人でも欠けていたら、この成功はなかった。最高のチームよ」
私がグラスを掲げると、アルフレッドさん、テオ、ルーク、エレナが次々とグラスを重ね、カチンと心地よい音を響かせた。
王都を追われ、どん底から始まった北領での日々。
だが今、ここには互いの強みを認め合い、誇りを持って笑い合える仲間がいる。
テーブルを囲むみんなの輝くような笑顔を見つめながら、私は胸を満たす温かい達成感を静かに噛み締めていた。




