第51話 第一回・北領定期自由市場開幕
朝靄が明けると共に、北領の広場にはこれまでに見たこともないほどの熱気が満ち始めていた。
打ち固められた広い街道の先から、カラカラと音を立てて馬車の列がやってくる。隣領の商人だけでなく、王都の重税を逃れてきた迂回商隊、さらには近隣の村々から集まった領民たち。
「すごい……本当にこんなに人が来ちゃったぞ!」
木製の出店テントの横で、テオが目を見張って叫んだ。
「当たり前でしょう。ルークのデータ解析と、エレナのブランディング、そしてテオくんたちが作った最高の道路があったからこそよ」
私は広場全体を見渡し、満足げに頷いた。
「さあ、北領定期自由市場、オープンよ!」
私の合図と共に、市場の開催を告げる鐘の音が響き渡った。
最初に人だかりができたのは、エレナがプロデュースした特産品ブースだった。洗練された木箱に小分けされた大麦の焼き菓子や、香ばしい大麦茶、北領の野草ハーブティーが、飛ぶように売れていく。
「まあ、なんて可愛らしいパッケージなのかしら! 王都のお土産にもぴったりだわ」
「この大麦茶、試飲させてもらったけれど香ばしくてとても美味しいわね。箱ごと三ついただくわ!」
貴族や裕福な商人たちの買い求める声に、エレナは華やかな笑みを咲かせて対応していた。
「ありがとうございます! どうぞ、北領の豊かな恵みをお楽しみくださいませ!」
かつて王都で打ちひしがれていた少女の姿はどこにもない。堂々と自慢の商品をアピールする姿は、一流のプレゼンターそのものだった。
一方、現場の混雑整理や商品の搬入は、テオ率いる領内の若者たちが完璧にこなしていた。
「はい、そっちの馬車はあっちの駐車エリアへ! 荷降ろしは俺たちが手伝うぜ!」
「助かるよ、にいちゃん! こんなに動きやすくて整った市場は初めてだ!」
テオの手際の良さに、商人たちも感心したように声を上げる。勉強を重ね、全体の動きが見えるようになったテオの成長が、市場のスムーズな運営を支えていた。
「リーゼロッテ様、ご覧ください」
隣に立つルークが、羊皮紙に素早く数値を書き込みながら、眼鏡の奥の瞳を輝かせた。
「開幕からわずか二時間で、予測来場者数を三十パーセント上回っています。低関税とスムーズなインフラの噂を聞きつけ、明日以降の出店を希望する商人からの問い合わせも殺到していますよ」
「完璧な滑り出しね。ルークの需要予測の精度が高かったおかげよ」
「いえ、あなたの構想力が正しかった証拠です」
ルークが柔らかく微笑み、視線を交わす。その眼差しに含まれた温かい熱に、胸の奥がふっと熱くなった。
最果ての飢えと貧困に喘いでいた北領が、今や人と物が集まる活気あふれる巨大なハブへと生まれ変わっていた。
人々の笑顔と歓声が響き渡る広場の真ん中で、私たちは確かな手応えを噛み締めていた。




