第48話 男としての誓い
翌朝、執務室には早朝から固い決意を秘めた顔ぶれが集まっていた。
「みんな、朝早くから集まってもらってごめんなさい」
「構いませんわ、リーゼちゃん! 伯爵家の身勝手な要求を突っぱねるためですもの!」
エレナが拳を握りしめて応える。その隣では、アルフレッドさんが静かに温かいお茶を全員の前に差し出していた。
テーブルの端に座っていたテオが、ふいに立ち上がった。その手には、昨夜遅くまで羊皮紙と格闘していた跡が残る、くしゃくしゃになった計算ノートが握られている。
「リーゼ。俺、考えたんだ」
テオはまっすぐに私を見つめた。その瞳には、一人の男としてのたくましさが宿っていた。
「俺はルークみたいに頭が良くねえし、エレナみたいに王都のことに詳しくねえ。……正直、昨日まではあいつに嫉妬もしてた。リーゼの役に立ってるのが羨ましくてさ」
「テオ……」
照れくさそうに頭を掻きつつも、テオは言葉を続けた。
「けど、俺は現場のリーダーだ。この北領の土を耕して、街道の石を積んだのは俺たち領民だ。あんたが命がけで守ってくれたこの場所を、王都の威張った奴らに奪わせてたまるかよ」
テオは机に両手を突き、私に深々と頭を下げた。
「俺たちがもっと強くなって、あんたを絶対に守る。だから……頼むから一人で背負い込まないでくれ。俺たちを頼ってくれよ!」
嫉妬や幼い憧れを超えた、一人の男としてのまっすぐな誓い。
その熱い言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「ありがとう、テオくん。心強いわ」
私が微笑むと、テオは少し顔を赤くしながらも、誇らしげに胸を叩いた。
「テオ殿の言う通りです」
ルークが眼鏡の位置を直し、ノートを開いた。
「伯爵家からの書状を精査しましたが、法的な効力は皆無です。リーゼロッテ様は『王命』によってこの地に追放された。つまり、伯爵家の管轄権はすでに及ばず、北領の財産権は完全にリーゼロッテ個人に帰属します」
「王都での噂対策なら私に任せて」
エレナが力強く胸を張る。
「伯爵家が力ずくで奪おうとするなら、私がかつての人脈を使って『貧困領地を立て直した娘から成果を横取りする強欲伯爵家』として王都中に噂を広めて差し上げますわ!」
「そして、使者への対応は元執事である私にお任せを。形式と礼節の罠にハメ、手出しできぬよう追い詰めて見せましょう」
アルフレッドさんが優雅に一礼する。
現場を固めるテオ。
法とロジックで固めるルーク。
世論とブランディングで揺さぶるエレナ。
そして実務と外交を仕切るアルフレッドさん。
誰もが誰かの指示を待つのではなく、自らの役割を理解し、私を守るために完璧な陣形を組んでくれていた。
「報告いたします! アルテハイム伯爵家からの使者が、街道に到着いたしました!」
館の兵士が駆け込んできた。
私は深く息を吸い込み、椅子から立ち上がった。
「みんな、準備はいいかしら? ――私たちの北領に集たかる不要な害虫を、徹底的に排除するわよ」




