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「お前は口減らしだ」と婚約破棄された私が、前世の知識で領地を最適化したら、なぜか全員に溺愛されています  作者: 秦江湖


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第47話 血の呪縛と孤独

昼間の騒ぎが嘘のように、夜の領主館は静まり返っていた。


自室のテラスへ出ると、春とはいえ最果ての夜風はまだ肌を刺すように冷たい。私は手すりに寄りかかり、月明かりに照らされた北領の街道を見下ろしていた。


昼間、みんなの前では「好都合よ」と不敵に笑ってみせた。

だが、一人になると、胸の奥に重い澱のようなものが沈殿していくのを感じる。


(……前世でも、そうだったな)


必死に徹夜を重ねて構築したプロジェクトを、大した苦労もしていない上司や役員にあっさりと奪われたあの感覚。そして現世では、出来損ないの「不要品」として冷酷に追放しておきながら、金になると分かった途端に「親」の顔をして集たかってくるアルテハイム伯爵家。


「血縁」という理不尽なシステム。


どれだけ実績を重ねても、努力しても、身内という絶対的な上位権限で成果を掠め取ろうとする理不尽さに、前世からの疲弊がふと蘇る。


どんなにロジックを積み上げても、この徒労感だけは計算で消し去ることができない。


「……冷えますよ、リーゼロッテ様」


背後から静かな声が聞こえ、肩に温かいブランケットがかけられた。

振り返ると、温かいハーブティーのカップを持ったルークが立っていた。


「ルーク……まだ起きていたの?」


「データの整理をしていました。それと……あなたが無理をして笑っているような気がして」


ルークは私の隣に立ち、同じように月明かりの街道へ視線を向けた。


「僕の実家も似たようなものです。三男の僕が役に立たないと分かれば冷遇し、危険な考えを持つと分かればあっさりと切り捨てた。……血の繋がりなんて、権力や利益の前には何の保証にもなりません」


ルークの声は静かだったが、その言葉には実体験に裏打ちされた深い重みがあった。


「ですが、いまのあなたには、アルテハイム公爵家の庇護など一切必要ありません。この街道も、畑も、市場も、すべてあなたがご自身の知恵と決断で作り上げたものです」


ルークが私を振り返る。眼鏡の奥の黒い瞳が、まっすぐに私を見つめていた。


「もし伯爵家が何かを奪おうとするなら、僕が僕の持てるすべての知識と情報網を使って阻んでみせます。……あなたにこれ以上、不条理な思いはさせません」


「ルーク……」


ふいに彼の手が私の手元へと伸ばされ、ブランケットの端をそっと整えてくれた。

その指先が、私の手にほんの一瞬だけ触れる。


ほんのわずかな体温。

だが、その温もりが冷え切っていた胸の奥に染み渡り、急速に熱を帯びていく。


(心拍数が……上がっている……?)


前世を含めて、誰かに頼ったり、守られるような言葉をかけられたりしたことなど一度もなかった。常に「成果を出す機械」として前線に立ち続けてきた私が、この青年の前では、一人の無力な人間として佇んでいる。


理屈でも損益計算でも説明のつかない、胸を締めつけるような甘酸っぱい高鳴り。


「……ありがとう、ルーク」


私は自分の動揺を隠すように、夜風に乱れた髪を耳にかけた。


「でも、心配いらないわ。私はもう、あの家になんの未練もないもの」


「ええ。ですが……一人で抱え込まないでください。僕たちは、あなたの味方ですから」


ルークが柔らかく微笑む。


その横顔を見つめながら、私は自分の胸の中に生まれた小さく温かい感情を、誰にも気づかれないように静かに噛み締めていた。

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