第45話 流通ネットワークの連結
「リーゼ! 最後の石畳の固定、完了したぞ!」
街道の終わりで、汗を拭ったテオが力強く声を張り上げた。
完成した北領の主要街道は、水はけを計算された側溝を備え、馬車二台が余裕ですれ違える広さと滑らかさを誇っている。
テオたちが泥に塗れて積み上げた石畳は、春の強い陽光を浴びてまっすぐに伸びていた。
「見事な出来栄えね、テオくん。予定通りの工期で、完璧なインフラが組み上がったわ」
「おう! ルークの計算通りに排水溝を作ったからな、さっきの泥水もきれいに流れていったぜ」
テオは誇らしげに胸を張りつつも、どこか誇り高い顔つきを見せた。
ルークへの対抗意識を勉強と現場の成果へ変え、彼は着実に「信頼される現場リーダー」へと成長していた。
そこへ、馬を走らせてきたルークが到着した。彼の手には、周辺領地の商人ギルドや、例の王都の協力者から届いた最新の連絡袋が抱えられている。
「リーゼロッテ様、朗報です。北領の街道完成と低関税の報せを受け、隣領の商人グループや、王都の迂回ルートを使っていた行商たちが、一斉に北領ルートへの切り替えを開始しました」
ルークは地図を広げ、赤インクで新しい流通ルートを素早く描き加えていく。
「これで、北領は単なる『行き止まりの最果て』から、東西の物流が交差する『ハブ(中継拠点)』へと変貌しました。自由市場の開催日には、第一陣として少なくとも三十以上の商隊が流れてくる試算です」
「完璧な流通網の連結ね」
私は広げられた地図と、テオたちが作り上げた美しい街道を見比べ、深い満足感を覚えた。
現場の施工を完璧に仕上げたテオ。
市場のコンセプトと商品を洗練させたエレナ。
広域のデータを分析し、流通を引き込んだルーク。
そして、すべてを陰から支えるアルフレッドさん。
点だった個々の要素が、完璧な一つのシステムとして繋がり、噛み合ったのだ。
「お嬢様、これより『第一回・北領定期自由市場』の受入れ準備に入ります」
アルフレッドさんが静かに一礼する。その瞳には、これからの発展に対する確かな期待が満ちていた。
「ええ。準備はすべて整ったわ。あとはお客様を迎え入れるだけね」
最果ての貧困領地だった北領に、人・物・金が巡る巨大な循環が生まれようとしていた。
だが、この目覚ましい成功の波紋が、思わぬ「過去の影」を引き寄せることになるとは、この時の私はまだ知る由もなかった。




