第43話 定期自由市場の構想
執務室の大きなテーブルを囲み、北領のコアメンバーが一堂に会していた。
私、アルフレッドさん、テオ、ルーク、そして新しい仲間となったエレナだ。
テーブルの上には、ルークが持ち込んだ広域の物流データと、完成したばかりの北領街道のマップが広げられている。
「道路整備は完了したわ。これで周辺領地からのアクセスは確保された。次のステップは、人・物・金を呼び込む仕組み――『北領定期自由市場』の開設よ」
私が宣言すると、テオが身を乗り出した。
「市場か! 北領で獲れた大麦や野菜を売るんだな?」
「それだけじゃないわ、テオくん。ただの農産物を並べるだけなら、どこにでもあるローカルな市で終わってしまう。私たちが作るべきは、他領の商人が『わざわざ足を運びたくなる特別な価値』、ブランドを持った市場よ」
そこで私は、隣に座るエレナに視線を向けた。
「エレナ、王都や裕福な貴族領でいま流行っているものや、人々が買い求めているものの傾向を教えてもらえるかしら?」
急に指名されたエレナは一瞬驚いたように瞬きをしたが、すぐに背筋を伸ばし、その瞳にキリッとした聡明さを宿らせた。
「はい……! 王都や南部の都市ではいま、素朴でありながら『品質が確かで体に良いもの』が好まれる傾向にあります。特にハーブをブレンドした茶葉や、保存の利く質の高い乾燥食品は、旅人や商人たちに高く売れますわ」
エレナは手元の紙に、美しい流れるような文字でアイテムをリストアップしていく。
「北領の大麦を香ばしく煎った麦茶や、この地で採れる野草を使ったハーブティー、それに乾燥大麦の焼き菓子……。これらを雑に売るのではなく、綺麗な紙や木箱で小分けにしてパッケージングすれば、王都の高級店に劣らない価値が生まれます」
「素晴らしいわ、エレナ!」
私は思わずテーブルを叩いた。これこそが、製品に付加価値を乗せる「ブランディング=差別化」の視点だ。
「エレナの言う通りね。ルークのデータによれば、王都の重税を避けて迂回してくる商人たちは、手軽に運べて利益率の高い『軽量・高品質な特産品』を求めている。北領の低関税とエレナのセンスによるパッケージデザインが組み合わされば、商人は飛ぶように買っていくはずよ」
「僕も賛成です」
ルークが眼鏡の位置を直し、ノートに数値を書き込みながら頷いた。
「北領の関税率を王都の三分の一に設定すれば、商人側のメリットは絶大です。市場の開催日を月に二回、定期化することで、物流の拠点として機能し始めます」
「よし、俺たちは市場の売り場になる広場と、出店用の木製テントを手配するぜ! 商人たちが使いやすいように、テイクアウト用の棚も作る!」
テオが誇らしげに胸を叩く。彼も勉強の成果で、市場の動線を考えた設営を思い描けるようになっていた。
「お嬢様、各自の役割が完璧に噛み合っておりますね」
アルフレッドさんが温かい眼差しで全員を見渡し、優雅に一礼した。
前世の企業で何度も経験した、優れたチームが噛み合った瞬間のあの感覚。
それぞれの強みを持ち寄り、一つの大きな目標へ向かって走り出す――北領自由市場プロジェクトが、今まさに産声を上げた。




