第41話 追放令嬢エレナ
道路の第一期工事が完了し、北領の物流ラインは格段に滑らかになった。
泥に足を取られることなく商人や旅人が通り抜けられるようになった街道を、一向に手入れの行き届いていない一団の馬車が走ってきた。
馬の足取りは重く、護衛の数も数人程度。明らかに「訳あり」の移動だった。
「リーゼロッテ様、領主館の門前にお客様でございます」
アルフレッドさんの報せを受け、応接室へ向かうと、そこには着古した貴族用のドレスをまとった、小柄な少女がポツンと座っていた。
美しい栗色の髪をひとつに結び、不安そうに膝の上で指を折り曲げている。だが、その瞳には失意の中でも折れていない、強い意志の光が宿っていた。
「初めまして。北領領主のリーゼロッテ・フォン・アルトハイムよ。……長旅で疲れているでしょう。まずは温かいハーブティーでもどうぞ」
私が声をかけると、少女はハッと顔を上げ、慌てて背筋を伸ばして礼をとった。
「失礼いたしました、リーゼロッテ様! 私は……王都のモルテール伯爵家が娘、エレナと申します。突然の不躾なご訪問、心よりお詫び申し上げます」
彼女の声は緊張で固かったが、所作の一つひとつには洗練された気品があった。
事情をヒアリングすると、彼女の実家であるモルテール伯爵家は、王都の派閥争いに破れて没落。
父親は失脚し、家財を差し押さえられた末に、ひとり娘のエレナだけが縁戚を頼ってこの最果ての北領へと逃げ延びてきたのだという。
「……王都の連中は、父を罠に嵌めた挙句、私にまで『無能な敗北者の娘』と石を投げつけました。頼る当てもなく、ただ着の身着のままでここまで逃げてまいりまして……」
悔しさに唇を噛み締めるエレナ。
その姿は、かつて王都で不要品扱いされ、婚約破棄されて追放された私自身の姿とひどく重なった。
「いいのよ、エレナ様。ここにはあなたを嗤うような王都の貴族も、くだらない派閥も存在しないわ」
「リーゼロッテ様……」
「我が北領は今、絶賛事業拡大中のベンチャー領地なの。身分や過去の失敗なんて関係ないわ。やる気と人間性という資産があれば、誰でも歓迎するわよ」
私が微笑むと、エレナの瞳からぽろぽろと大きな涙がこぼれ落ちた。彼女はハンカチで必死に目元を拭いながら、力強くうなずいた。
「はい……! 私、どんな泥臭いお仕事でもいたします! どうか、私をこの地に置いてくださいませ!」
世間知らずの貴族令嬢。けれど、どん底から這い上がろうとするその強い心根は、本物だった。
こうして北領に、また一人――。
私にとって特別な存在となる新しい仲間が加わったのだった。




