第27話 罠の構築
「いい、みんな。敵は私たちが絶望して、作業を投げ出すのを待っているわ」
日が完全に落ちた領主館の地下室。松明の灯りに照らされたテオと、数人の村の若者たちに向けて、私は北領の縮尺図を広げた。
昼間のうちに、アルフレッドさんの手によって「井戸の汚染で大麦計画は破綻した」という偽の噂は村の内外へ完璧に流布されている。畑の播種作業も表向きは全面停止。敵から見れば、私たちのプロジェクトは完全に炎上し、機能停止に陥ったように映っているはずだ。
「相手が次に出る行動は一つ。私たちが完全に再起不能になったかどうかの『最終確認』よ。今夜か明日、必ずもう一度この大麦畑の排水口を狙って、直接壊しに来るわ」
「そこを捕まえるんだな? でもリーゼ、この広い畑を俺たちだけでどうやって見張るんだよ」
テオが地図の広さに眉をひそめる。
「力任せに見張る必要はないわ。敵の侵入ルートを絞り込むのよ」
私は地図上の三箇所をペンで囲んだ。
「最適化」魔法で昼間のうちに畑の周囲を再スキャンし、馬車や人間が夜間に隠れて近づける遮蔽物の位置、そして見落としがちな死角をすべて洗い出してある。敵がプロの暗殺者でもない限り、足場の悪い夜の畑で選ぶルートは、この三つのいずれかに限られる。
「テオくんたちのチームは、このポイントに潜んで。あらかじめ設置した『鳴子』の紐が引かれたら、すぐに音を鳴らして合図を送るの。直接戦う必要はないわ。あなたたちの仕事は、不正アクセスの検知よ」
「分かった。見つけたら、すぐに音で知らせる!」
テオが力強く頷く。子供たちの小回りの利く機動力と、暗闇での隠密性は、どんな最新の防犯システムよりも信頼できる。
「そして、合図が鳴ったら大人の男たちが一斉に松明を持って包囲するわ。アルフレッドさん、人員の配置は?」
「お嬢様の指示通り、第二、第三ルートの裏手に、鍬と棍棒を持った男たちを三十名、息を潜めさせております。いつでも網を絞り込めます」
暗闇に立つ老執事が、冷徹な笑みを浮かべた。彼もまた、かつて自分の夢を潰した中央の影を、今度こそ容赦なく叩き潰す覚悟を決めている。
「よし、セキュリティ・ネットワークの構築は完了ね」
私は地下室の窓から、静まり返る大麦畑の闇を見つめた。
かかってきなさい、有象無象。私の精緻なシステムを汚した代償がどれほど高くつくか、身を以て教えてあげるわ。




