第18話 広大なバグの正体
頭の芯がジリジリと熱くなるほどの魔力を消費しながら、私は広大な荒野のデータを強引に読み込んでいく。
視界を埋め尽くす水色の光が、徐々に形を成して文字へと変わっていった。
【対象:アルトハイム北領・中央大麦畑(休耕地)】
【状態:深刻な土壌の酸性化(PH4.2)、および根張りの阻害】
【主要課題:数年前の土木工事のミスによる、地下排水路の完全なる閉塞。および滞留水による根腐れ】
【最適化プラン:領地西側の本流へと続く排水溝の泥上げ(開通作業)。および、全域への大量の木灰散布による中和。必要魔力量:中(処理限界に近い負荷を検知)】
「はぁ、はぁ……っ!」
光が消えると同時に、私は激しい目眩に襲われ、その場に手をついた。今の私の低い体力と魔力では、これだけの広範囲のスキャンは文字通りの限界値だ。
「リーゼロッテ様!大丈夫ですか!」
アルフレッドさんが慌てて駆け寄り、私の身体を支える。
「ええ、平気よ。……それよりアルフレッドさん、バグの正体が分かったわ。ここが不毛の地になったのは、呪いでも土地の寿命でもない。ただの『人災』よ」
私は泥のついた手を払い、立ち上がった。
「人災、でございますか?」
「数年前に、この近くで何か大きな工事をしなかった?」
私の質問に、アルフレッドさんは記憶を辿るように眉をひそめた。
「……そういえば、五年前、前領主の命で近くに王都の貴族を迎えるための別荘を建てました。その際、見栄えを良くするために川の流れを一部変えた記憶が……」
「それよ。その工事のせいで、この大畑の地下にある排水路が完全に潰れて泥で埋まったんだわ。逃げ場のなくなった地下水がこの場所に溜まり続け、土を冷やし、根腐れを起こさせていた。だから作物が全滅したのよ」
前世の業務改善でもよくあった。経営陣が現場の意見を無視して導入した華やかな新規システムのせいで、既存の基盤のデータフローが完全に詰まり、現場が大炎上するケースだ。
「つまり、西側の本流へ繋がる古い排水溝の泥をすべて掻き出し、家庭菜園と同じように木灰で土を中和すれば、この広大な畑は一瞬で最高の生産拠点に生まれ変わるわ」
私の言葉に、アルフレッドさんは息を呑んだ。
「ですがお嬢様、この広さです。冬が来るまでの二ヶ月弱で、この広大な排水溝の泥上げと、これだけの土地に撒く大量の灰を、私と館の使用人だけで用意するなど……」
「だから、外注するのよ」
私はニヤリと笑い、領民たちの村がある方角を指差した。
「家庭菜園の成功で、テオたち子供平民の信頼は勝ち取ったわ。今度は、あのご褒美のスープの味を占めた、大人の男たちのマンパワーを全員分、このプロジェクトに投入してもらうわよ」




