表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「お前は口減らしだ」と婚約破棄された私が、前世の知識で領地を最適化したら、なぜか全員に溺愛されています  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/27

第15話 社畜人生も無駄ではなかった

領主館の大食堂は、これまでにない熱気に包まれていた。


部屋の中央に据えられた大きな鍋からは、収穫したばかりの蕪と干し肉をじっくり煮込んだ白い湯気が、美味しそうな匂いと共に立ち上っている。


「さあ、みんな、遠慮しないでたくさん食べてちょうだい」


私が声をかけると、テオたち子供平民や、館の使用人、そして集まった村の大人たちが一斉にスープを口に運んだ。


「……美味い!」

「なんだこれ、蕪がすごく甘いぞ!」


あちこちから歓声が上がる。

いつもは飢えと寒さに怯え、暗い顔をしていた領民たちが、今は誰もがハグハグと口を動かし、本当に幸せそうな笑顔を浮かべていた。温かいスープのおかげで、彼らの痩せた頬がみるみるうちに健康的な赤みを帯びていく。


「これ、本当に俺たちが種を撒いた蕪なのか? 信じられねえや」


テオがスープの器を大事そうに抱えながら、しみじみと呟いた。


「そうよ。あなたたちがマニュアル通りに、毎日大切に育ててくれたからよ」


私が微笑むと、テオは照れくさそうに頭を掻き、それから真っ直ぐに私の目を見た。


「ありがとな、リーゼ。お前が来てくれて、本当に良かった」


その言葉に、周囲の大人たちも深く頷き、私に向かって次々と感謝の言葉を口にした。


(……ああ、そうか)


弾けるような笑顔と、温かい拍手の中に身を置きながら、私は胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。


前世の私は、誰に感謝されることもなく、ただ数字のバグを消すためだけに、深夜のオフィスでボロボロになるまで働き続けていた。あの日々は虚しく、私の人生には何の意味もなかった――ずっと、そう思っていた。


けれど、違ったのだ。


(無駄なことなんて、ひとつもなかった。あの日々で培ったすべての知識と経験があったからこそ、私は今、この世界で目の前の人たちの命を救い、こんなに素敵な笑顔を作れているんだわ)


そう気付いた瞬間、視界が急に熱くなった。

溢れ出しそうになる涙を、私は泥のついた袖で慌てて拭った。


(ありがとう、前世の私。――社畜人生も、無駄ではなかったわ)


過去の自分を、今、完全に肯定して清算できた気がした。

もう、生きるために目先のバグを叩くだけの「社畜」のリーゼロッテはここまでだ。今日から私は、この地を愛し、この人たちの未来を背負う、本物の『経営者リーダー』として生きていく。


涙の跡を隠すように、私は小さくガッツポーズをした。


「お嬢様、素晴らしい第一歩でございますね」


アルフレッドさんが、そっと私の隣に歩み寄り、今日一番の優しい声で囁いた。


「ええ。でも、これはまだ小さなテストケース(家庭菜園)の成功よ。アルフレッドさん、明日からは次のフェーズに移るわ。この仕組みを、領地全体の大きな休耕地へと拡大スケールアップしていくわよ」


「――御意。どこまでもお供いたします、リーゼロッテ様」


老執事は、私の覚悟を呼び覚ますような、深く確かな一礼を捧げた。

最果ての赤字物件を、最高の黒字領地へ。私の本気の改革が、ここから幕を開ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ