第13話 衛生管理オペレーション
「お嬢様、村の主だった者たちを集めました」
アルフレッドさんの呼びかけで、集会所の前に数十人の大人の領民たちが集まった。誰もが疲れ果て、新しくやってきた王都の令嬢を「今更何をしに来た」と不審そうに見つめている。
私は集まった大人たちの前に立ち、はっきりと声を張った。
「集まってくれてありがとう。単刀直入に言うわ。村で流行っている高熱の原因が分かったの。今から言う二つのルールを、今日から徹底してちょうだい」
領民たちがざわざわとざわめき始める。
「一つ目。水は必ず、火にかけてグラグラと沸騰させてから飲むこと。生水は絶対に口にしないで。二つ目。外から戻ったら、必ず井戸の水で手をきれいに洗うこと。泥がついた手のまま、食べ物に触らないでちょうだい」
沈黙の後、一人の年配の男が鼻で笑うように声を上げた。
「ハッ、何を言い出すかと思えば……。そんな面倒なことで、毎年の呪いが消えるわけねえだろ。ただの風邪だ、寝てりゃ治る奴は治るし、死ぬ奴は死ぬ。お為ごかしはたくさんだ」
男の言葉に、周囲の大人たちも同調するように頷き始める。
前世の業務改善でも同じだった。「昔からこうやってきた」「新しいルールは面倒だ」と、合理的な提案を感情論で撥ね退ける現場の抵抗勢力。これが一番のボトルネックだ。
「面倒でもやってもらうわ。これは、この領地を存続させるための――」
私が説得しようと一歩前に出たとき、私の服の裾をぎゅっと引っ張る手が下りた。
「おい、お前ら! リーゼの言うことを聞けよ!」
テオだった。彼は大人たちの前に小さな身体で立ちはだかり、声を荒らげた。
「裏の菜園を見たろ!? 絶対に何も育たないって言われてた呪いの土地に、リーゼは蕪の芽を出したんだぞ! 俺たちも一緒に種を撒いたんだ、嘘じゃねえ! この人は、俺たちが見えなかった土のバグってのを見つけて直したんだ!」
テオの必死の訴えに、大人たちが気圧されたように黙り込む。
「テオ……。お前、その令嬢に騙されてるんじゃ……」
「騙されてねえ! 実際に芽が出たんだ! お前ら、毎年仲間が死んでいくのを、ただ呪いだ何だって諦めて見てるだけなのかよ! 四日だ。四日だけでいいから、リーゼの言う通りにしてみてくれよ!」
現場リーダーとしてのテオの熱い叫びが、頑なだった大人たちの心を動かしていくのが分かった。
アルフレッドさんもすかさず、背後から静かに補足する。
「館の厨房でも、昨日からすべての水を沸騰させて使用しております。リーゼロッテ様の命に従う者には、館の備蓄から薪を優先的に支給いたしましょう」
飴と鞭、そして信頼。
領民たちは顔を見合わせ、やがて渋々といった様子で「……分かったよ」「四日だけだぞ」と頷き始めた。
「ありがとう、テオくん。助かったわ」
私がテオの頭を撫でると、彼は顔を真っ赤にして「ふん、俺はあいつらに死なれたら困るだけだ」とそっぽを向いた。
「よし、全員で徹底するわよ。『衛生管理オペレーション』、本日より開始!」
私は小さく拳を握った。
目に見えない敵(細菌)との戦いが、ここから始まる。




