第12話 次なるバグ
「熱が下がらない? そんなにひどいの?」
翌朝、館の厨房でスープの仕込みを手伝っていた私は、顔を真っ青にして飛び込んできたテオの報告に手を止めた。
昨日倒れた子は、館の一室で寝かせているが、容態は芳しくないらしい。それどころか、テオの表情はいつになく切迫していた。
「あいつだけじゃないんだ。テオの村でも、他に三人、同じように急に高熱を出して倒れた。……リーゼ、やっぱりこの領地は呪われてるんだよ。冬が近づくと、毎年こうやってみんな原因不明の悪性の風邪で死んじまうんだ」
テオはきつく拳を握りしめ、悔しそうに床を見つめた。
せっかく蕪の芽が出て未来が開けかけたというのに、また過去のトラウマが彼らを支配しようとしている。
(毎年、冬の前に集団で発生する高熱……。ただの『風邪』にしてはタイミングが良すぎるわね。必ずどこかに共通の原因、つまりバグがあるはずよ)
「アルフレッドさん、今すぐその子たちのところへ案内して。状況を直接監査するわ」
「承知いたしました。すぐに手配します」
アルフレッドさんの先導で、私は倒れた子供たちが集められている村の古い集会所へと向かった。
中に入ると、冷え切った空気の中に、荒い呼吸と重苦しい沈黙が満ちていた。横たわる子供たちの額に触れると、どれも燃えるように熱い。
私は彼らの枕元に膝をつき、そっと手を伸ばして土壌調査のときと同じように意識を集中させた。
(最適化、起動)
【対象:領民の集団発熱(生活環境)】
【状態:汚染された生水の摂取による、腸内有害細菌の繁殖(検知率92%)】
【主要課題:井戸の底部の泥に混入した生活排水。および、外から戻った際の手洗い習慣の欠如】
【最適化プラン:飲用水の完全なる加熱沸騰。および不純物のろ過。帰宅時の流水による手洗いの徹底。必要魔力量:微小】
視界に浮かび上がった青いデータを見て、私は小さく息を吐き出した。
「やっぱりね。呪いでも何でもないわ。ただの『衛生管理不足』による集団感染よ」
「え……? えいせい、かんり?」
テオがパチパチと瞬きをする。
「みんなが使っているあの井戸、生活排水が少し混じって汚れているのよ。それを生のまま飲んで、しかも泥だらけの手で食べ物を口にしていたら、お腹の中にバグ(菌)が繁殖するに決まっているわ」
前世でも、冷房の効きすぎや激務による免疫低下でオフィス内に風邪が蔓延したとき、真っ先にやったのは加湿器の設置とアルコール消毒の徹底だった。基本の予防策を怠れば、システムは簡単に崩壊する。
「原因が分かれば対策は簡単よ。アルフレッドさん、村の大人たちを全員集めてちょうだい。この領地から『冬の呪い』を完全に駆除する業務命令を出すわ」
私の迷いのない言葉に、テオの瞳に再び小さな光が灯ったのが見えた。




